多くの人々は、日常生活のなかで色を識別できることを当然と思い込んでいる。けれども、色覚異常をもつ人々にとっては、障がいの影響はときに耐えがたいものであり、ごく単純な仕事をこなすことさえ困難になることがある。
色覚異常は一般的な遺伝性疾患であり、保因者の人口は極めて多い。世界で男性の約8%、女性の約0.5%が、なんらかの色覚異常を抱えていると推定される。これほど一般的であるにもかかわらず、効果的な治療法はいまだに存在しない。
だが、3Dプリント技術の普及を追い風に、研究者や医師は、色覚異常に苦しむ人々のニーズに応える画期的な新技術を開発している。この記事では、3Dプリンターで作られたコンタクトレンズが、色覚異常に伴う症状の一部を緩和するのにどう役立つかを探ってみよう。
現行の治療から、未来のヴィジョンへ
色覚異常を改善させるために現在選べる方法は限られている。最もポピュラーな手段は色補正レンズであり、EnChroma(エンクロマ)などの企業が特別なメガネを提供している。これらのレンズは、色の識別能力に悪影響を及ぼす特定の波長の光をブロックする機能をもつ。ただし、こうしたレンズは、一部の人々に対しては有効だが、すべての色覚異常に効果を発揮するわけではない。また、これらは一般に高価であり、入手が困難な場合もある。
そこで考案されたのが、色覚異常者用の3Dプリント製コンタクトレンズだ。アラブ首長国連邦のハリーファ大学の研究チームは、色覚異常の補正に役立つ特別な仕様のコンタクトレンズを製造するための新たな技術を開発した。
このレンズは、色覚補正メガネのレンズに似た機能を持っており、特定波長の光を遮断することで、色のコントラストを強調する。この革新的なアプローチは、色覚異常に苦しむ人々の生活を好転し得る、大きな可能性を秘めている。
3Dプリントによるコンタクトレンズの製造
色覚異常を補正するコンタクトレンズの製造は、高度な専門知識と技術を必要とする、複雑で魅惑的なプロセスだ。最初のステップでは、3Dプリンターを使ってコンタクトレンズの型をつくる。次に、この型に色覚異常のタイプ別に開発された特殊な有機素材を充填する。この素材は、光学特性や、型の表面への接着性に基づいて、入念に選択されたものだ。次のステップでは、熱または紫外線にさらすことで、有機素材を硬化させる。この硬化プロセスにより、素材は、形状と特性を保ち、型の表面にしっかりと付着するようになる。
素材の硬化が完了したら、型を除去する。これでコンタクトレンズの形をした色覚補正素材の固形パーツができあがる。
最後のステップでは、レンズを研磨し、表面をなめらかに仕上げる。ここでは、特殊なツールや技術を駆使して、あらゆる不具合を除去し、表面が完璧になめらかで透明なレンズをつくりあげる。このプロセスは、クリアで精度の高い視覚をもたらすレンズにするために不可欠だ。
こうして、個人の眼に合わせて個別に設計されたコンタクトレンズが完成する。