優秀な人材が集まる仕組みがある
──スタンフォードの元学長や起業など、シリコンバレーの中心人物として活躍されてきましたが、このエコシステムをどのように定義しますか?シリコンバレーのエコシステムは、かなりユニークです。まず、米国で最高の公立大学(カリフォルニア大学バークレー校)と最高の私立大学(スタンフォード大学)が近くにあるのです。その結果、一般的な教育水準が高くなり、世界中から優秀な人材が集まるようになりました。
そして、才能ある人々が住みたくなる環境があります。晴れの日が多く、気候が素晴らしい。世界中から多様な人々が集まっているので、自分と同じ出身の仲間を見つけることもできます。
世界中からやってくる人たちを歓迎する文化もあります。だから、世界中から才能を取り込むことができるのです。失敗に対して寛容で、リスクを取る気概がある。愚かなリスクではなく、考え抜かれた野心的なアイデアに裏打ちされたリスクです。才能あふれる多様な人々の挑戦が融合して特異な環境を作り出しているのです。
──スタンフォード大学全体で、多様性とは何かという議論が常に行われていますね。日本でも徐々に多様性やイノベーションの重要性が認識されつつありますが、シリコンバレーと日本の違いはどのようなものでしょうか。
日本のビジネスとテクノロジーのエコシステムには、技術的な卓越に加えて、従業員の会社への忠誠心など、特筆すべき点があると思います。一方、シリコンバレーには、グーグルのような巨大企業であっても、四半期で25パーセント以上の急成長を可能にする独自の風土があります。
カリフォルニア大学バークレー校のアナリー・サクセニアン教授は、シリコンバレーの隆盛の理由を、「技術に忠実な文化」として挙げます。1つの会社に固執せず、技術の可能性を求めて同業他社を転々としていく文化は、アメリカ国内でも特徴的です。ヒューレット・パッカードで学んだ人が、サン・マイクロシステムズやシリコングラフィックスに転職し、のちにグーグルやヤフーで事業を率いるリーダーになっていきました。
加えて、シリコンバレーは、時代の波を捉えてきました。1980年代のアップル・マイクロソフトの台頭に続き、90年代初頭にはマイクロプロセッサーとパーソナルコンピューターが大きな波となりました。そこから、インターネットが生まれ、ソーシャルメディアやモバイルの隆盛を経て、今はAIの波が押し寄せています。
こうした波が度々起こるので、われわれはサーファーと同じようなものです。サーフィンをしているときに、波に乗り遅れたら、次の波を待って、泳ぐしかない。波は次から次へとやってきます。チャンスにあふれているのです。シリコンバレーはこの点で抜きん出ています。