この小さな町は、世界中の起業家やイノベーターたちが、知識と富をブータンにもたらす拠点になれると彼は主張した。フィンチのスタートアップ企業であるYung Drung City(ユンドゥン・シティ)社は、ピーター・ティールのVCから出資を獲得し、人工ダイヤのユニコーンのDiamond Foundry(ダイヤモンドファウンドリー)や英国の貨物用ドローン航空会社Dronamics(ドロナミックス)、フィンランドの炭素回収技術企業Carbo Culture(カーボ・カルチャー)を含む19の国外企業から、このハイテク都市への入居の意向を取り付けていた。
このプロジェクトは、間もなく現実のものになりそうだ。同国のジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王は12月17日、ゲレフに広さ1000平方キロメートルの経済特区を設立する「巨大スマートシティ構想」を発表し、ブータンとインドを結ぶ鉄道を建設すると宣言した。ブータン政府は、このプロジェクトに外国からの投資を呼び込むと述べている。
しかし、ティールやフィンチらは、このプロジェクトに関与していない模様だ。「外国人コンサルタントの影響下にあるブータンの指導者たちは、現在、別の実行可能とは言い難いプロジェクトを再構築している」とフィンチはフォーブスに語った。
ブータン王国のプロジェクトは、フィンチが描いたビジョンと類似してはいるものの、完全に政府が主導権を握るものに置き換えられた。同国の「ブータン・マインドフルネス・シティ」と政府内で呼ばれるスマートシティ構想は、この件に近い2人の情報筋によると、マッキンゼー・アンド・カンパニーとシンガポールの都市計画コンサルタント会社Cistri(シストリ)によって計画されているという。
しかし、このマインドフルネス・シティ計画は、ブータンの約80万人の国民から強い反対を受ける可能性がある。このプロジェクトは、以前から国民の間では公然の秘密となっており、政府による土地の強奪や現地農民の強制移住につながることが懸念されていると情報筋は述べている。
こうした懸念は、1980年代から1990年代にかけてブータン政府がこの地域のネパール系住民9万人以上を暴力的に追放したゲレフの暗い歴史に根ざしている。その多くは現在もネパールやインドで難民として暮らしている。非営利団体(NPO)のヒューマン・ライツ・ウォッチは、ブータン王国の刑務所には政治犯として30年以上拘留されている囚人が30人以上いると主張している。
起業家のフィンチは、ゲレフに「チャーターシティ」と呼ばれる、独自の憲章によって統治システムが定義される自律的なハイテク都市を作ろうとしていた。このアイデアは、反規制感情の強い投資家が多いシリコンバレーで、すぐに賛同者を見つけることができた(チャーターシティの概念は、中国の深圳や中東のドバイの都市計画に類似しているとも言われている)。
その中の1人であるティールは、自身が出資するベンチャーキャピタルのPronomos Capital(プロノモス・キャピタル)から約100万ドル(約1億4000万円)のシード資金をフィンチのプロジェクトに出資した。また、元子役でビットコインの伝道師となったブロック・ピアースもこのプロジェクトに投資した。