高級ブランドではLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)に次ぐ時価総額第2位のエルメスを1837年に創業したティエリー・エルメスの5代目の相続人であり、同社株の約5%を保有するピュエシュは、雇用していた51歳の庭師の男性を養子とし、正式な相続人とするための手続きを開始したという。ピュエシュは独身で、子どももいない。
ピュエシュは資産のおよそ50%と、所有する不動産ポートフォリオをこの男性とその家族に譲る考えだという。家事使用人でもあったこの庭師は、すでにモロッコの不動産とスイスにある別荘(合わせて約600万ドル相当とされる)を譲り受けたとされている。
スイス・ジュネーブの地方紙トリビューン・ド・ジュネーブによると、フランスに本拠を置く世界最大のファッションブランドグループであるLVMHが、ひそかにエルメスの株を23%まで買い進めていたことに関連して、ピュエシュは10年ほど前から親族との不仲が伝えられていた。
LVMHがエルメス株の保有割合を引き上げていることが明らかになった後、エルメスの相続人たちは買収を阻止するため、持ち株会社を設立。この会社がエルメス株のおよそ半数を保有することとした。
だが、ピュエシュは自身の保有分を自ら管理することを決断。その後、2014年にエルメスの監査委員会の委員を辞任した。このときピュエシュの代理人は、「何年か前から、いくつかの事柄について親族から非難されており、『包囲網を張られている』と感じていたことが理由だ」と説明していた。
LVMHと、現在は世界2位の富豪となっている同社のベルナール・アルノー会長兼CEOは、最終的にはエルメス株の大量保有を断念している。
ほかにもある、異例の「遺贈」
ピュエシュの資産承継計画は、確かに異例だ。だが、大富豪のなかには他にも、同様の行動を取った人たちがいる。ポルトガルの貴族の血を引くルイス・カルロス・デ・ノローニャ・カブラル・デ・カマラは2007年、死去する10年以上前に電話帳から無作為に選んでいた70人に、銀行口座と首都リスボンにある部屋数12のアパートメントのほか、住宅と高級車、オートバイなどを遺贈したという。