その傾向が極端な人は、あらゆるものが手放せなくなる。古い新聞や郵便物であれ、新旧の未使用物であれ、所有物をどうしても処分できない人がいる。これは「ため込み症」と呼ばれるもので、所有物を処分するという考えに深いストレスを感じ、しばしば家の中が物であふれてしまう。
ため込み症は、学術的にも一般的にもよく知られている。だが、現代に広がるため込み症の一種で、あまり知られていないものがある。物理的な所有物をなかなか捨てられない人がいるように、現代人の多くはデジタル所有物をなかなか捨てられない。この現象は「デジタルため込み症」と呼ばれ、心理学分野での研究により、特定と理解がしやすくなった。
「デジタルため込み症」とは?
学術誌Social Media and Societyに掲載された研究論文では「デジタルため込み症」を、しばしば甚大な障害やストレスにつながる無数のデジタルファイルの蓄積と定義している。研究チームは、この現象の原因とメカニズムを調査した結果、ネット上で自分と他人を比較することが多い人に多く見られることを発見した。このような比較による圧力は、「取り残されることへの恐怖(fear of missing out=FOMO)」につながり、デジタル所有物をため込む傾向をさらに悪化させるのだという。人がさまざまな種類のデジタルデータやコンテンツをため込む理由はいろいろだ。
・写真や動画。感傷的な価値や、思い出を失うことへの恐れ、あるいは膨大な視覚的記録を維持したいという願望から、人生のあらゆる瞬間をとらえた写真や動画を大量にため込む。
・書類やファイル。数多くのデジタル文書、ファイル、ダウンロードの蓄積は、将来役に立つかもしれないものを削除したくないという気持ちから生じる。この背景には、重要な情報を逃してしまうことへの恐れや、これらのファイルがいつか必要になるという考えがあるかもしれない。
・電子メール。送信・受信メールをため込む理由は、コミュニケーションや履歴、添付ファイル、情報を保持したいという欲求や、削除や整理が面倒で先延ばしにする行為によるものの可能性がある。
・ソーシャルメディアへの投稿。思い出を保存したり、自分の生活を他人と比較したり、オンラインで見せたい自分のイメージを維持するために、ソーシャルメディアで見つけた投稿を保存したり、スクリーンショットを行ったりことがある。
・ブックマークやリンク。後で読んだり参照したりするつもりでブックマークや保存したリンクをため込むのは、興味深い記事やリソース、ウェブサイトを取り逃すことへの不安(FOMO)によるものである可能性がある。
・ゲーム、アプリ、ソフトウエア。たとえ積極的に使用していなくても、数多くのゲームやアプリケーションをダウンロードし保管しているのは、娯楽の選択肢や利得を逃す可能性への恐れ、いつかそれらを使ってみたいという願望、またはかつて喜びをもたらしたものを手放したくないという気持ちが原動力になっているのかもしれない。
・サブスクリプション。積極的に利用しないのにも関わらず、ストリーミングサービスや音楽アプリ、オンラインストレージなど、複数のデジタルサービスに加入しているのは、コンテンツを逃すことへの恐れや、これらのサービスが将来役に立つかもしれないという思い込みから起こる可能性がある。
学術誌デジタル・ヘルスで発表された研究結果によると、デジタルため込み症は、物理的な物のため込みと同様、苦痛と害を生む可能性がある。この研究では、人は物質的な所有物に執着するのと同じように、デジタル所有物に強く執着するようになる可能性があり、このような執着に起因する習慣は、物理的なため込みと同じような感情的・環境的影響を及ぼす可能性があるとされている。