しかし、その翌年にロシアがウクライナに侵攻したことで、すべてが変わった。米国の大手2社に依存する固体燃料ロケットの製造キャパシティは、ウクライナでの急ぎの需要を満たすために、まったく十分ではなかったのだ。
「そのことが、当社が動き出すきっかけになったのです」と、現在33歳のロリエンティはフォーブスに語った。
アーサ・メジャーはその後、固体燃料ロケットエンジンの製造を劇的にスピードアップできるという3Dプリンティング・システムの開発に着手した。同社は11月30日、国防総省のミサイル製造を支援するために、シリーズDラウンドで1億3800万ドル(約200億円)を調達したと発表した。当初は人工衛星の打ち上げ用ロケットを主な市場に見据えていたアーサ・メジャーは、受注の獲得に苦戦した結果、6月に320人の従業員の約4分の1を解雇していた。
アーサ・メジャーの新たな投資家の中には、かつてレイセオンと呼ばれた防衛大手RTXの投資部門であるRTXベンチャーズが含まれている。RTXは、ウクライナ軍が使用するスティンガー対空ミサイルを製造し、ロッキード・マーティンとの合弁事業では対戦車ミサイルのジャベリンを製造している。
ミサイル用の固体燃料ロケットエンジン分野では、統合が進んだ結果、かつては6社あった企業が2社にまで減少した。その結果、今後の供給に不安を感じたRTXが頼りにしたのがアーサ・メジャーだった。
アーサ・メジャーの新たな事業には、多くのチャンスがある。RTXとロッキードは、ジャベリン・ミサイルの生産量を2026年までに年間2100基から4000基に引き上げることを検討しており、米陸軍はロッキードに対し、2026年までにロケットの生産を現状の年間6000基から1万4000基に増やすよう求めている。
また、将来的な需要はウクライナ向けに限らない。「ウクライナで起きたことは、米国の軍事産業の基盤が、現状では中国との戦争のような大規模な紛争に巻き込まれた場合に対応できないことを示している」と、ワシントンにあるアメリカン・エンタープライズ研究所の国防アナリスト、トッド・ハリソンはフォーブスに語った。
固体ロケットエンジンの製造分野では、ロッキードが出資するX-Bow社や、パルマー・ラッキーが設立したアンドゥリルなど、複数の競合がいるものの、アーサ・メジャーは、液体燃料エンジンで培った3Dプリンティングの専門知識が優位に働くと考えている。
同社が開発した製造工程では、3Dプリンター1台で年間1650個の固体ロケットエンジンのケーシングを製造できるという。これは、現状のジャベリン・ミサイル向けの需要を十分満たせる製造キャパシティだ。さらに、3Dプリンティングで製造されたケーシングは、従来のパーツよりも部品点数が少なく安価であり、異なるロケットエンジンの製造に切り替えるのも比較的簡単だと同社は述べている。