イントラプレナーとは、企業内で新規ビジネス立ち上げのリーダーとなり、経営者としての能力を発揮する「社内起業家」を指す言葉だ。日本では大企業を中心に、新規事業の創出はもちろん、企業風土の改善やモチベーション向上の手段として採用する動きも見られる。
一方、海外で広がりを見せつつあるのがソーシャル・イントラプレナー、すなわち社会課題の解決に取り組む社内起業家の存在だ。商業価値の創出と社会課題の解決を同時にかなえるアイデアやプロジェクトをけん引する。
なぜ、ソーシャル・イントラプレナーが注目されるようになったのか。複数の起業家やイントラプレナーのイニシアチブを手がけてきたベン・アットルはその理由を、「企業によるSDGsへの対応が一般化したことが大きい」と話す。企業ではさまざまなSDGs関連プロジェクトが立ち上がっている。それに伴いソーシャル・イントラプレナーの必要性も高まったというわけだ。
「トリプルボトムライン(組織のパフォーマンスを『経済的側面』『社会的側面』『環境的側面』の3つの軸で評価すること)を意識するようにという圧力が、ソーシャル・イントラプレナーの支援プログラムやコミュニティにつながっている」
従来のイントラプレナーとソーシャル・イントラプレナーには多くの共通点がある。例えば、「予算やスポンサー、応援してくれる人たちを獲得するための戦術はイントラプレナーもソーシャル・イントラプレナーも変わらない」。
一方、異なるのはアイデアの出し方だ。「アイデア創出のプロセスは似ていても、ソーシャル・イントラプレナーの場合はアイデアやプロジェクトの社会的インパクトがより大きく、かつ会社のパーパスとリンクしている必要がある」
グリーン・ウォッシングに警鐘
企業のリーダーと話をすると、ソーシャル・イントラプレナーシップへの理解が広がり始めていると感じるとアットルは言う。一方で、「ソーシャル・イントラプレナーは現場でさまざまな課題に直面しているのも事実」だと指摘する。「多くの組織にはいまだに上意下達型のヒエラルキーがある。リスクを回避したがる傾向も見られ、革新的なアイデアを支援するのは難しい環境だ。メンタルヘルスの問題もある。社内起業家には友人や家族、ビジネス関係者などからのサポートが必要だが、この部分が見過ごされることがある」
さらに、ソーシャル・イントラプレナーに対する社会からのイメージにも課題があるとアットルは指摘する。
「イントラプレナーのプロジェクトやアイデアと、それらを支援する組織との間にはちょっとした“断絶”があることが多い。そのため、ソーシャル・イントラプレナーの活動は、あるかいわいではグリーン・ウォッシング(投資家や消費者に対して環境配慮をしているように装うこと)だといわれている」
見せかけの社会貢献。そうとらえられないようにするために必要なことは何か。アットルが提言するのが「システム思考を用いたイントラプレナーシップ」だ。