暮らし

2023.12.17 15:00

父から私、そして我が子へ。受け継がれる思い出とたしなみ

贈り、贈られたモノや体験は、人生を変えるほどの力を持つことがある。企業のトップ、リーダーたちが経験した、モノや体験に介在する特別な思い入れを紹介する。自身の生き方、サクセスストーリーにも影響を及ぼしたであろう「GIFT」の逸話には人間味あふれる姿がある。希薄化も言われる現代の人間関係とは異なる、特別な関係だ。

THE GIFT #6

野尻佳孝 

テイクアンドギヴ・ニーズ代表取締役会長/TRUNK代表取締役社長
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お守りにもなるといわれる白珊瑚の数珠。
柔らかな色合いが上品で、親玉には花菱の家紋が彫られている。
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「外見にも気を配りなさい」。幼少期から、私は父にそう言われて育った。それはTPOに沿った服装だけでなく、身だしなみや所作に至るまで、人からどう見られているかを意識せよという教えであったのだろう。実際にさまざまな場所に出かけ、多様な人々に会うにつれその大切さを実感し、20代で起業をした当時から常に意識し続けてきた。
 
そんな父が、年々葬儀やしのぶ会への参列が増えた私にと生前あつらえてくれたのが、家紋の入った白珊瑚の数珠である。念珠ともよばれ、代々受け継ぐことで先祖への感謝や子孫への絆をつなぐといわれる数珠。なかでも長い年月をかけ海で育まれた珊瑚は、家族の幸せや繁栄を願う気持ちが込められているという。普段はモノに執着するほうではないが、この数珠は特別。亡き父との思い出と共に大切にしていきたい贈り物だ。父の教えをあらめて心に刻もうと、最近この数珠に合わせ礼服と靴をオーダーメイドした。
 
この数珠を渡す際、父は「野尻家を後世につないでほしい」と私に伝えた。その気持ちを受け継ぎ、いつか自分の息子が年頃になったら、私も数珠を贈ろうと思っている。


のじり・よしたか◎1972年生まれ。95年明治大学政治経済学部を卒業。住友海上火災保険(現三井住友海上火災保険)に就職後、98年テイクアンドギヴ・ニーズ設立。2001年にジャスダック、06年東証一部へともに史上最年少で上場。10年から会長。16年にTRUNKを設立し代表取締役社長に就任。

文=伊藤美玲 イラスト=東海林巨樹

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