実のところ、ロシア軍にとっては、膨大な犠牲を出して「肉挽き機」状態となっているアウジーイウカ戦が、5月のドネツク州バフムート制圧以来、最も成功した作戦になっている。とはいっても、ロシア軍の連隊はアウジーイウカの北と南で1.5km程度しか前線できておらず、獲得した領域も10平方kmほどにとどまる。アウジーイウカ自体は落とせていない。
ロシア軍はアウジーイウカ周辺で、支配領域を1平方km広げるごとに1300人の死傷者を出している計算だ。大半はウクライナ軍の砲兵旅団の餌食になっている。ウクライナ軍の砲兵将校、コールサイン(無線通信時のニックネーム)「アーティ・グリーン」は、各旅団は突進してくるロシア軍の縦隊を互いに競い合うように砲撃していると述べている。
ロシア軍がウクライナでウクライナ軍よりもはるかに多くの死者を出し、その見返りも小さいのは明らかだ。だが、この不均衡さが問題になるのかどうかはそれほど明らかではない。
ウクライナは民主主義国であり、その主要な支援諸国もそうだ。これらの国の決定は民意に従う。一方、ロシアは名ばかりの民主主義国であり、プーチンに逆らうのは違法も同然で、信頼できる対抗者はたいてい死ぬか投獄されている。
ロシアの主要な仲間である中国、イラン、北朝鮮も権威主義国である。暴力をともなう革命でも起きない限り、これらの国で世論はあってないようなものだ。「ロシアにも不満をもっている人はたくさんいるが、それを吐き出すのはますます難しくなっている」と、ジャーナリストのローランド・バソンはインターナショナル・ポリティクス・アンド・ソサエティー誌への寄稿で書いている。
ロシアは何万人も徴募し、犠牲をいとわずウクライナに送り込むことができる。人的損失がかさんでも、戦争努力が損なわれることはない。他方、ウクライナ軍の反攻が予想ほど進んでいないことで、米議会のロシア寄りの共和党員らは、今後の対ウクライナ支援の拒絶を正当化するのに必要な理由を手にした。
プーチンは最近、ウクライナに「未来はない」と言い募った。「われわれには未来がある」とも。だが、プーチンの言う「われわれ」とは、自身がウクライナで起こした戦争で命を落とした大勢のロシア人のことではない。プーチンにとっては、ウクライナ人の命がどうでもいいように、ロシア人の命もどうでもいいものなのだ。
(forbes.com 原文)