他にも、乳幼児用の柵で囲われたベッドのCMでは、横たわる母親の身体の上でグッスリ眠っている女の子が映し出される。また、ステップスツールのCMでは、母親の腿の上に立ち上がって、高い位置にある蛇口に手と口を近づける女の子のシーンがある。
IKEA: Proudly Second Best (Campaign) (Cannes 2023) (Film Gold Lion)より
Webアクセス数は前年から37%増
SNSを意識したような仕掛けもないし、複雑なストーリーもない。それどころかセリフもBGMもない。ワン・アイディアだけで(これは1つの伝統的なテレビCMのつくり方でもある)、ここまで伝わる広告コミュニケーションをつくり上げたのは見事だと言えるだろう。このテレビCMは、2023年6月にフランスで開催されたカンヌライオンズ2023において、フィルム部門ゴールド等を受賞した。カンヌライオンズとは、世界の広告界やマーケティング界で飛びぬけて大きな影響力を持つアワ−ドである。
このカンヌライオンズの贈賞式に筆者も出席していたのだが、幾つかあるゴールド受賞作の中でも、ひときわ大きな拍手を受けていたのをよく覚えている。世界中から集まった人々の心にも、このシンプルなつくりのテレビCMは、深く刺さったわけだ。
ブランドリーチは、UAEで8.1%、カタールで7.3%、オマーンで9%も伸びた。また、IKEA乳幼児用家具ページのWebアクセス数は前年より37%増加し、乳幼児家具に関するオンライン収益は7.4%、乳幼児家具の店頭での販売売上も6.3%も増加したという。
「両親の身体の次にベストなIKEAの乳幼児用製品」という、パワフルなメッセージを見つけたところが、このテレビCMの勝因の第一だろう。そして、そうしたパワフルなワン・アイディアが見つかったら、余計なことはせずに、極力シンプルにそのワン・アイディアを表現する。余計な工夫を入れたくなるが、慎重に排除すべきだ。それが、広告コミュニケーションの1つの鉄則だろう。