例えば新聞広告では、その新聞の読者だけでなく、SNSでシェアされることでの話題化を狙った表現内容にするケースもある。筆者はこの傾向を「“作品としてのクリエイティビティ”から“仕掛けのクリエイティビティ”へ」と呼んでいる。
しかし、その“仕掛けのクリエイティビティ”の流れに当てはまらない事例が出てきた。IKEAの乳幼児用家具のテレビCM「Proudly Second Best」だ。中東を中心に展開したこのCMは、ワン・アイディア(1つのコアとなるアイディア)だけにフォーカスした大変にシンプルなつくりとなっていて、“仕掛けのクリエイティビティ”の要素は、ほとんど感じられない。
IKEA: Proudly Second Best (Campaign) (Cannes 2023) (Film Gold Lion)
子どもにとっての一番はいつだって両親
このテレビCMのワン・アイディアとは、「IKEAの家具は2番目であることを誇りに思う。子どもにとっての一番はいつだって両親だから」というコピーだ。3本シリーズのうち1本に、乳幼児用のIKEA製ハイチェアのCMがある。映像は、ハイチェアのアップに、価格が示されたビジュアルから始まる。BGMもなく、音声は状況音だけである。カメラがゆっくり引いていくと、小さな男の子がIKEAのハイチェアではなく、父親の腿の上に座っていることがわかる。そして、彼が父親にごはんを食べさせてもらっているシーンが続く。
愛おしそうに息子の後頭部にキスをする父親。そこにIKEAのロゴが表示され、続いて「Proudly Second Best(誇りを持って2番目にベストなもの)」というコピーが現れる。
「IKEAの乳幼児用ハイチェアは、家具の中ではベストな商品だと自信を持っているが、それも父親の身体の上には適わないよね」というメッセージが、ごくごくシンプルな映像で見事に表現されているのだ。