欧州

2023.12.15 13:00

ウクライナ、ロシア軍の電波妨害装置を攻撃か 来年の地上作戦に向けて

ウクライナ南部のロシアが支配しているドニプロ川左岸(東岸)にある小さな集落、クリンキがよい例だ。ウクライナ軍は秋にクリンキ周辺でロシア軍のドローンの電波を計画的に妨害する一方で、同地域に設置されていたロシア軍のジャマー(無線妨害装置)も攻撃した

その結果、クリンキ上空にロシア軍のドローンが安全に飛行できない区域が生じ、ウクライナの海兵隊が安全に川を渡って突撃できるようになった。クリンキで橋頭堡(きょうとうほ)を確保するためにしらみ潰しに戦っていたとき、海兵隊は局地的な制空権を握っていた。海兵隊のドローンは飛ぶことができ、ロシア軍のドローンは飛ぶことができなかったのだ。

局地的な制空権を握っていたからといって、ロシア空軍が約40km離れたところから強力な滑空弾をクリンキに打ち込むのは防げなかった。だが、ウクライナ軍の橋頭堡を脅かす可能性のある大規模な反撃を、ロシア陸軍と空襲連隊が組織するのを阻むことはできた。ロシア軍の車両がクリンキに近づくたびに、ウクライナ軍のドローンが急襲し、車両を爆破する。そしてロシア軍はFPVで反撃することができない。

つまり、ロシアとウクライナの戦争において、電波妨害と電波妨害装置への攻撃はもはや特別なことではないということだ。地上攻撃を成功させるためには、歩兵戦術や大砲の運用計画、兵たん備蓄と同様に、それらが不可欠だ。そして、ウクライナ軍が来年の地上作戦を成功させようとしているのなら、地雷除去と並んで絶対に使いこなせるようになければならない戦場機能だ。

少なくともウクライナ軍トップの将校たちはこのことを理解している。同軍のワレリー・ザルジニー総司令官は最も緊急に必要なものとして、電子戦システムを、対地雷や対砲兵、防空などのシステムと並んで挙げた。

ウクライナを支援する人々は、ドンバスにおける最近の攻撃で、HARMがPole-21やその他のロシア軍の電波妨害装置を標的にしたことを願うべきだ。2024年に攻撃を成功させるための条件を整えるには、ウクライナ軍はこれらの電波妨害装置への攻撃を1000回ほど繰り返す必要がある。だが、その1000回の攻撃作戦はどこかで始めなければならない。

この作戦が実現しないかもしれないと懸念する主な理由を挙げるとすれば、それはHARMが米国製のミサイルであり、米国が定期的にウクライナに供与している兵器のひとつであるということだ。だが米連邦議会では現在、親ロシアの共和党議員が、来年のウクライナへの軍事援助に610億ドル(約8.9兆円)を支出するというジョー・バイデン大統領の提案を却下している。

米国の援助がなければ、ウクライナ空軍はロシア軍の電波妨害装置を攻撃するのに必要なミサイルをすぐに使い果たしてしまうだろう。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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