サイバーセキュリティへの意識が高まるなか、最高峰の技術をもつイスラエル国防軍(IDF)出身者たちが立ち上げた企業が業界を牽引している。Wiz(ウィズ)は、そんなユニコーン(評価額10億ドル以上の未上場企業)の筆頭格だが、群雄割拠するこの1兆ドル市場で生き延びるには、セオリーに反する「攻めの経営」を推し進める道しかないと共同創業者兼最高経営責任者(CEO)アサフ・ラパポートは確信する。その自由でスピード感のある経営と企業文化は、従来の巨大で官僚的なグローバル企業のイメージを刷新していくのだろうか?
ウィズのCEOアサフ・ラパポートは、創業の地であるイスラエルで半ばセレブリティ的な扱いを受けている。彼がウィズの創業から3年で世界的に重要なテックプレイヤーとして頭角を現したことを考えれば、驚くほどのことでもない。ラパポートは、ソフトウェア業界で最も話題のユニコーン企業のCEOであり、オープンAIのサム・アルトマンと親交をもったり、アマゾンのVIP招待客としてF1レースを観戦したりする存在なのだ。
ラパポートはもともと内向的で、コーヒーもだめ、野菜もだめ、スパイスもだめというお子様のような食生活を送り、茶毛のボーダーコリー、ミカと散歩する以外、ほとんど趣味もない人間だ。その彼がいま時の人となっているのは、自身のセキュリティツールでクラウドと人工知能(AI)というふたつの流行の波に、誰よりも迅速に乗っているからだ。
調査会社のガートナーによれば、クラウド関連のツールやサービスの市場は5000億ドル規模で、成長率は年間20%以上。AIの主流化で、企業は先を争ってオープンAIのチャットGPTのようなツールの導入を目指し、AIツールを訓練するためにクラウド上に膨大なデータをアップロードしているが、この新しい世界では悪意あるハッカーたちも独自のAIツールをもっている。そこで、ウィズが、アマゾンウェブ サービス(AWS)やマイクロソフト・アジュール(Azure)のようなストレージプロバイダーに接続し、クラウド上のすべてのデータやファイルをスキャンし、セキュリティ上のリスクを知らせ、深刻度別に優先順位をつけてくれるのだ。
ただ、クラウド市場のセキュリティブームに便乗しているのはウィズだけではない。上場企業のパロアルトネットワークス(時価総額750億ドル)はじめ、潤沢な資金をもつスタートアップの競合各社が居並ぶ。そうしたなかでもウィズが現在、最も旬なプレイヤーであることに疑問の余地はない。
ラパポートと共同創業者たちは、「自殺行為的」と自ら呼ぶ計画を実行してきた。最短で会社を築き上げるべく急ピッチで採用を進め、巨額の資金を調達し、最初からトップクラスの企業を顧客として狙ってきた。ウィズの顧客リストには、すでにフォックスやモルガン・スタンレー、LVMHなどが並ぶ。LVMHのCEOで、世界トップクラスの資産家ベルナール・アルノーに至っては、ラパポートの野心に感銘を受けるあまり、ウィズに個人として小切手を切ったほどだ。ウィズの年間定期収益(ARR)は創業から18カ月で1億ドルを超え、さらに9カ月後には2億ドルを超え、フォーブスが毎年発表している「クラウド100社」リストの15位に入ることになった。