ラパポートとその投資家たちにとって、顧客からのこのような熱烈な反応は千載一遇の好機でもあった。次々に資金調達を行い、20年秋に4億ドルだった企業価値は、今年2月には100億ドルに達した。
「私たちは巨大企業と戦っているのです」
ラパポートは肩をすくめ、ライバルの手元にも同様の自由に使える資金があると指摘する。
「チャンスもとてつもなく巨大です。ただ、ライバルに立ち向かうには、私に投資する能力がなければ」
アグレッシブでなければ生き残れない
パンデミックが始まり、テック企業の新規株式公開(IPO)が止まり、新興企業が新たな資金を得る機会を失うなか、セコイアの元グローバルリーダーでビリオネアのダグラス・レオーネは、投資先企業のCEOたちに一筆書き、無計画な成長より利益に集中するよう強く促した。ただし、彼はその後ラパポートに電話をかけ、短く付け加えた。「私が言ったことは、君には当てはまらないからね」
急拡大を続けるウィズの米国本社は、マンハッタンのハドソンヤード開発地区にある。従業員の大半はこの1年の間に入社した人々で、オフィスは「コントロールされたカオス」状態だという。
創業者たちとその側近を除けば、ウィズの経営幹部は長く続かない。昨年9月、ラパポートはラーズ・ハーズバーグに、この3年で3人目となる最高マーケティング責任者(CMO)になってほしいと頼んだ。前CMOは、クラウド型ID管理プラットフォームのオクタ出身の業界のベテランだったが、わずか9カ月しかもたなかった。ある最高顧客責任者など2週間で辞めた。ウィズは、この規模の企業が必要とするそのほかの経営幹部も欠いている。
急ピッチでの採用で常に適切な人材を採用できるわけではないと、ラパポートも認めている。
「ウィズには厄介なところがあるのです。すでに大きな企業になっていますが、非常に若い会社でもあるわけで」(ハーズバーグ)
しかし、取締役会から不満の声は聞こえない。同社は引き続きあらゆる売り上げ目標を突破し続けているからだ。ラパポートは、インデックス・ベンチャーズの投資家がウィズの経営方針について、「安心できないが、私は安心できない状態でいたい」と言い切ったことを覚えている。創業から1年後、予想では800万ドルだった初年度売り上げが、実際には4200万ドルだったとの発表を聞いての発言だ。
セキュリティ分野の営業の世界は熾烈な競争で知られるが、複数の業界関係者は、ウィズの営業担当者たちの活動はそのなかでも倫理的な競争の範疇を超えていると話す。例えば、オルカなどの競合が長く存続できることを当てにすべきではないと見込み客に話しているというのだ。オルカは今年7月、デラウェア州でウィズが「オルカをコピーせよ」という作戦を実行しているとして訴訟を起こした。
ラパポートいわく、ウィズはほかにも「FUD」と呼ぶ不安(fear)、疑念(uncertainty)、不信(doubt)をあおる攻撃にさらされている。とはいえ、ウィズの味方でさえ、押しが強いという同社の評価に異存はない。ただそれは、これほどまでに急成長する必要があるせいだという。
「ウィズはとてつもなくアグレッシブで、それが気に入らない人もいる。しかし、そこまでアグレッシブである必要があるのです。そういう世界ですから」
イスラエルのインキュベータ、チームエイト(Team8)の共同創業者はそう語る。