これは、国際宇宙ステーション(ISS)での実験で栽培されたミニトマトをめぐる奇妙な物語だ。問題のトマトは、米航空宇宙局(NASA)のフランク・ルビオ飛行士が育てていたもの。ルビオは1年を超えるISS滞在を経て9月に地球に帰還し、米国人飛行士による連続宇宙滞在時間の最長記録を打ち立てた人物。
今年3月、ルビオはNASAの植物栽培実験装置「Veggie」を用いて花や野菜などを育成する実験「Veg-05」で、レッドロビンという品種のミニトマトを収穫したが、ISS内で紛失してしまった。あらゆるものが浮遊し、収納容器や面ファスナーで何もかもを固定しなければならない無重力空間ならではのトラブルだ。
ISSで栽培される野菜の多くは食用ではなく、地球へ送られて科学分析に回される。ISS滞在クルーの中には、消えたトマトをルビオがつまみ食いしたとからかった人もいたようだ。
9月に行われたISSと地上との交信で、ルビオはトマトを食べたかと問われ、疑惑を否定。「困惑している。何時間もかけて探したのに」「干からびたトマトがいつか見つかって、私の潔白を証明してくれるはずだ」と話していた。
ルビオの無実は証明されたと言っていいだろう。ISS運用25周年を記念して今月6日に行われたライブ配信で、NASAのジャスミン・モグベリ飛行士が消えたトマトの謎に言及。「ルビオ飛行士の嫌疑を晴らそう。私たちは例のトマトを見つけた」と笑いながら言ったのだ。見つかったトマトがどんな状態だったのか、詳しい説明はなかったが、8カ月間も行方不明だったのだから噛みごたえは相当ありそうだ。
ルビオがISS長期滞在中に取り組んでいた「Veg-05」宇宙植物学研究は、NASAによる宇宙での野菜栽培プロジェクトの一環。NASAは今年初めのISS活動レポートで、「植物学調査の主な目的は、地球低軌道のはるか彼方まで旅する宇宙飛行士を持続的に支え、物資輸送ミッションへの依存を軽減する継続的な生鮮食料生産システムを構築することだ」と説明している。