「肉挽き機」などとも呼ばれるが、こうした戦い方では双方が甚大な損害を出すのは避けられない。ロシアは犠牲をいとわないように見える。ロシアはかなりの人口があるし、政権にとって好ましくない人を「始末」するために、戦場をいわば社会工学的な手段として利用しようともするだろう。
だが、戦線の膠着が続き、犠牲ばかり膨らんでいくという状況は、ウクライナにとっては恐ろしい悲劇だ。とくに西側の支援国の無責任さを見れば、ウクライナは苦悩のあまりファウストのようにプーチンと契約を交わしてしまい、和平交渉に入るのではないかと思う人がいてもおかしくはない。
ウクライナがそうしないのにはいくつか理由がある。ロシアがウクライナの子どもたちを連れ去り始めた時点で、ウクライナにとってこの戦争は最後まで戦い抜くものになった。また、多くの人が言っているように、ロシアと取り決めを結ぶことはできない。結んだところで、ロシアはそれを守らないからだ。和平交渉に応じようとすればロシアに弱さを見せることになり、付け入る隙を与えるだろう。
思い出してほしいが、ウクライナは何十年にもわたってロシアの背信行為を間近で見てきた。まずチェチェン。最初の戦争でロシアは事実上、チェチェン人に独立を与えたが、その後、プーチンのもとで準備を整えて戦争を再開し、グロズヌイを徹底的に爆撃して焼け野原にした。10万人が死亡した。
次にジョージア。2008年の戦争の停戦協定後、ロシアは粛々とジョージアの国土を奪い取っていった。その次が、ウクライナのクリミアとドンバスだった。20年あまりにわたって、チェチェンで、ジョージアで、そしてウクライナで、外国の首脳たちは常に、被害者の側に和平を促してきた。プーチンは話のわかる男で、戦闘を止めたがっているなどと請け合って。
ジョージアでの戦争では、欧州評議会がトビリシにハイレベルの調停チームを送り込んだ(筆者は当時、トビリシに滞在していた)。調停チームはサーカシュビリ大統領に矛を収めるよう説得した。まるで彼が問題を引き起こしたかのように。
彼らはサーカシュビリに文字通りこう言った。プーチンにチャンスを与え続けましょう、そう頑なではいけません、と。彼らは間違っていた。プーチンの「魂に触れた」と思ったブッシュも間違っていた。ロシアとの関係の「リセット」ボタンを押し続けたオバマも間違っていた。