「スナック」を持続可能に。目指すは100店の事業承継

坂根千里|水中代表取締役、「スナック水中」ママ

スナック女子、略して「スナ女」。大学在学中にスナックに魅了された坂根千里は、自身をこう呼ぶ。大学卒業と同時に国立市の「すなっく・せつこ」を承継し「新卒のスナックママ」になった坂根は、業界でも異色の存在。坂根にとってスナックは「人が集まり、エネルギーチャージする場」。大学で居場所のなさを感じていた坂根は初めてスナックを訪れた際自然体で心地よい空間と感じ、当時のママに誘われて働き始めた。全国のスナックの数はコンビニより多いが、コロナ禍での顧客減やママの高齢化等に伴い毎年1割のペースで減少している。坂根が働いていた店のママも当時すでに70代。「うちを継がない?」と誘われた。

最初は冗談だと思った、と笑う坂根。大学で街づくりを学んでいたこともあり、スナックには「偶発的に人と出会い、弱みを晒せる場所」という機能があると考えた。私たちを癒してくれる場所をなくすのはもったいない。就活をする同級生を横目にスナックの承継を決めた。1年強かけ、持続可能なビジネスにするため事業計画を練った。融資やクラウドファンディングで資金を集め、一見客が入りづらい外装を一新。中が覗けるガラス張りのドアに替え、カクテルなど女性や若者が好むメニューも追加した。

22年に「スナック水中」として再開業。「せつこ」時代60~70代だった中心客層は40~50代に若返り、顧客の約2割は女性や若者だ。1年目の売上高は再開業前の1.6倍に増えた。かつてママひとりの記憶に頼っていた客の誕生日や酒の好みなどの情報はデータ化しSlackなどで共有、効率化している。女性客の居心地も考えていわゆる「色売り」は避け、新規客はママと話しやすい席に座ってもらうなどと工夫する。2店舗目としてミュージックバーの承継も決まった。

今年8月には妊娠中であることを公表。目指すは「ママとママ業の両立」。「昔は妊娠や子持ちを隠して店に立つ人もいました。子育てと経営を両立し、10年後には100店舗を承継したい」


さかね・ちさと◎1998年生まれ。一橋大学在学中に東京・国立市の「すなっく・せつこ」で勤務開始。卒業と同時に同店を事業承継、2022年3月にリブランディングした「スナック水中」を開業。24年4月には2店舗目となる同市内のミュージックバー「NO TRUNKS」を承継、リニューアルオープン予定。

文=菊池友美 撮影=林 孝典

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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