真の営業マネージャーは、感覚でなく科学的にコーチングをする
有能な営業マネージャーを育てる二つ目のコツは、感覚やセンスで成績を上げられたプレーヤー時代の感覚から脱皮し、データやファクトに基づき科学的にチームを導くスタイルへの変更です。本連載の第一回でも書きましたが、「営業マネジメントは科学」です。スポーツで選手の成績を上げるためには、マネージャーやコーチは各選手の成績データに基づいて、本人にアドバイスやコーチングを行うのが今や当然ですよね。営業マネジメントも同じです。マネージャー自身の感覚だけに頼らず、データやファクトに基づいて、論理的に営業パーソンを導く必要があります。
営業パーソンから営業マネージャーに昇格する場合、ここに大きなマインドギャップがあります。センスの良い営業は、科学的な分析に基づかなくても営業成績を上げられる方が多くいますが、営業マネージャーが感覚だけでチームを導くとうまく行きません。野球選手がコーチや監督になる時、選手時代の感覚だけでコーチしていたらどうなるでしょうか?それと同じで、営業パーソンが営業マネージャーに昇格して部下やチームメンバーを持ったら、感覚ではなくデータ分析に基づいてコーチングをすることが大切になります。
本連載の第一回で示したように、営業パーソンの業績を、訪問回数や顧客数、顧客別売上やクロスセル率などの指標で割り算して分析を行い、どの部分に課題があるかを分析し、真の課題を見つけるように考えると良いでしょう。野球の例えを使うなら、打者の評価をする場合に打率や長打率、出塁率などで詳細に分析をするのと同じです。
これらの分析をする際、多くのCRMやSFAには、基本的な分析が内蔵されているので、それらを活用することもできます。今年(2023年) に入り、GPTなどの生成AIを活用した自動分析を売りにするCRM/SFAも増えています。CRM/SFAを新たに導入する場合は、営業パーソン分析、顧客分析がどれだけAIで自動化、効率化できるかも良く見て検討するが良いでしょう。
営業推進・営業企画は「科学的な営業マネジメント」を支える部隊
大企業には、営業企画部、営業推進部と言われる部署がありますが、この部署は本来、スポーツでいえばスコアラーやスポーツアナリストに対応する部署です。コーチング業務に忙しい営業マネージャーに代わって、顧客のデータ分析や営業パーソンの成績分析を提供し、全体に必要なトレーニングなどを企画する。営業マネージャーの科学的なコーチングを組織的に支えるのが、本来の役割です。しかしながら、これらの部署が他の雑務に追われ、スポーツアナリストの役割を果たせずにいるケースも多くあります。営業改革においては、彼らが本来の営業企画、営業推進の役割を果たせるよう、業務改革をすることのもマネジメントの重要な役割です。
有能な営業マネージャーを育てることが、営業改革成功の第一の鍵。前編では、営業マネージャーがコーチングに時間を使えるようにする、そのためには経営者の腹決めが重要であること。そして、コーチングにおいてはスポーツ同様、科学的なアプローチが出来るよう、組織的に、またはAIなどのテクノロジーを活用して支援していくことをお話させていただきました。次回は、残り二つの鍵についてお話ししたいと思います。
倉本由香利◎マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー。東京大学理学部卒、同大学物理学修士、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院経営学修士(MBA)。製造業を中心に、数々の営業改革、営業デジタル改革、売上成長改革、新規顧客開拓、ソリューション営業改革等を支援。マッキンゼーのアジア太平洋地域、および日本における成長・営業・マーケティンググループのリーダー。二児の母で、マッキンゼーにおける女性活躍推進プログラムのリーダーの一人。