ガイアナもベネズエラも、エセキボにはきわめて大きな経済チャンスがあると認識している。ガイアナはすでに国民1人あたりの原油埋蔵量が世界最大だが、新たな油田は途方もない富をもたらす可能性がある。その可能性を感じているということなのだろう、ガイアナ政府は掘削の入札を実施し、エクソンモービル、米シェブロン、英BP、仏トタルエナジーズ、地元企業連合シスプロなどが応札している。
マドゥロは国境をめぐる危機、さらにはガイアナに対する侵略を利用して、みずからの権威主義体制の正統性を強固にすることを狙っているのかもしれない。だが、マドゥロはエセキボの併合を強行した場合の影響について過小評価しているのではないか。ウクライナ、イスラエル、アジア太平洋で世界的な安全保障上の危機や懸念が相次ぐなかで、米国が新たな紛争を、それも自国の「裏庭」での紛争を容認するはずがない。米国のスーパーメジャー(国際石油資本)も関与するなか、ブライアン・ニコルズ米国務次官補(西半球担当)はガイアナの資源開発権を支持すると述べ、ガイアナを支持する姿勢を打ち出している。カリブ共同体(カリコム)と米州機構(OAS)はいずれもベネズエラが計画する国民投票を違法とみなしている。ベネズエラ、ガイアナ両国と国境を接するブラジルも平和的な解決を呼びかけている。
ベネズエラがエセキボの併合を追求するのは重大な誤りであり、制裁と大量の国民の国外脱出によって荒廃している経済にもまったく利益にならないだろう。石油資源を新たに獲得したところで、腐敗した無能な社会主義政権から輸出できるようになる見込みは薄く、国は救えない。ベネズエラの指導部はそれを知ったうえで、国の将来の方向性を決める重要な選挙に先立ち、みずからの政治資本を蓄え、政敵に裏切り者の烙印を押すために、国民投票を利用する腹積もりなのかもしれない。だが実際の意図が何にせよ、マドゥロは、崩れつつある体制を領土の拡大で救済しようとして失敗した2つの歴史的事例を思い出すべきだ。アルゼンチンの軍事政権による1982年の英領フォークランド侵攻と、イラクのサダム・フセインによる1990年のクウェート侵攻である。どちらも、ナショナリズムの武器化は長続きしないことを示す結果になった。次にどう行動するか、マドゥロは慎重に考えるべきだろう。
(forbes.com 原文)