我々は、言葉にて語り得るものを語り尽くしたとき、言葉にて語り得ぬものを知ることがあるだろう。
すなわち、多くの人々は、「論理」と「直観」は対立的なものと思っているが、実は、「論理」を究める修業に徹したとき、不思議なことに、「直観」に突き抜けるのである。
このように、筆者の体験からも、左脳型人間と右脳型人間、論理的人間と直観的人間といった「二項対立的な才能観」は、決して正しくないと言える。
同様に、「理系人間」と「文系人間」といった分類も正しくない。筆者自身、理系の原子力工学を専攻した人間であるが、一方、過去30年の間に、社会や人間について、数十冊の本を上梓している。
では、なぜ、筆者は読者に、こうした「二項対立的な才能観」の問題を指摘するのか。
それは、こうした才能観が、我々の中に眠る多様な才能の開花を妨げてしまうからである。
その原因は、実は「無意識の世界」にある。
これは、筆者が著書『運気を磨く』の中でも述べたことであるが、我々の心の世界は、あたかも電気の世界に似ているからである。すなわち、表面意識の世界にプラスの想念を引き出すと、無意識の世界には、マイナスの想念が生まれてくるのである。
例えば、二項対立的な考えを強く抱いたまま、表面意識で「自分は右脳型人間だから直観力に優れている」という想念を抱くと、無意識の世界には、「自分は直観力は優れているが、論理思考は弱い」という自己限定的な想念が生まれてしまい、その無意識の自己限定が、恐ろしいほどに、我々の才能の開花を抑えてしまうのである。
かつて、空海やレオナルド・ダ・ヴィンチなど、右脳も左脳も見事に開花させた「天才」と呼ばれる人々がいる。その姿は、決して遥か彼方にあるのではない。実は、すでに、我々の中にある。
田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、21世紀アカデメイア学長。多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)専門家会議元メンバー。全国8000名の経営者やリーダーが集う田坂塾塾長。著書は『直観を磨く』『教養を磨く』など100冊余。