どの攻撃も、始まりになるのは監視ドローンだ。クリンキの上空では、クワッドコプター(回転翼が4つのドローン)とみられるドローンが常時、接近してくるロシア軍部隊に目を光らせている。監視ドローンの操縦士はロシア軍部隊を発見すると、爆薬を積んだFPV(一人称視点)ドローンの操縦士に連絡する。
多くのFPVドローン操縦士はVRヘッドセットを介して操縦し、ドローンを誘導して目標に突っ込ませ、爆破する。
今回のドローン攻撃では、夜間に攻撃を仕掛けてきたロシア軍のBTR装甲兵員輸送車が目標になった。この装輪車両は「非常に素早く攻撃位置に入った」とブロブディは述べている。
ウクライナ軍の監視ドローンは、BTRが30mm機関砲で射撃するのを視界に捉えていた。BTRの乗員にとって不運なことに、ブロブディのチームの「緊急ドローン」(自爆するFPVドローン)がすでに上空で待機していた。
「待っててくれよ」と、ブロブディは当時の映像を見ながら地上部隊に向けて語りかける。「あとちょっとでそこに行くからな」
ただ、夜は更けつつあった。大半のFPVドローンは暗闇ではうまく機能しない。そのうえ、BTRの乗員も危険を認識しているらしく、自軍の防衛線に急いで退却しようとしていた。束の間、ロシア軍部隊は逃げおおせられそうに見えた。
が、BTRの乗員は不運に見舞われる。射撃位置からバックしたBTRは道路をはみ出し、泥の中に突っ込んで動けなくなってしまう。「そうだ、虫けらめ、もっと深くはまるんだ」。ブロブディはあわれなBTRの姿を眺めて含み笑いをする。
FPVドローンの操縦士にとっては、BTRが立ち往生しただけでもう十分だった。爆薬を搭載したドローンは、待機場所から目標に向かってぐんぐんスピードを上げていく。ロシア兵2人が徒歩で逃げ出すなか、ドローンは泥地にはまったBTRに命中する。「虫が走ってるぞ」とブロブディがつぶやく。
発見から破壊まで、攻撃全体に要した時間は1分20秒だった。つまり、ウクライナ軍の橋頭堡を封じ込めるのに手こずっているロシア軍にとって、ウクライナ側の陣地に接近し、数発射撃して撤収するのに許された時間は、1分ほどしかないかもしれないということだ。
それ以上長くとどまれば、ドローンによって見つけられてしまう恐れが出てくる。
(forbes.com 原文)