供給力の効果は、「三年程度の『変革期間』を視野に入れて、集中的に講じて」いくとした。具体的には、半導体や脱炭素のように安全保障に関係する大型投資、AIなどイノベーションへの取り組み、スタートアップへの支援、があげられている。労働市場改革、企業の新陳代謝促進、物流革新など、必要性は十分に語られている問題を列挙しているが、解決の糸口は語られていない。
質の高い仕事への労働参加に必要な年収の壁をどう取り除くかについても、「全ての方が壁を乗り越えられるようにするため、十分な予算上の対応を確保します」としているが、予算をどう使うかの具体策は見えてこない。
国民への還元では、税収の増収分の一部を国民に還元するとしている。物価高(インフレ率)に賃金上昇率が追い付いていないとの認識から現金給付する、ということらしい。こちらは、供給力の強化とは違って、具体的だ。
このような、分配の政策は経済学的には問題が多い。税収が予想よりも大きかったので国民に「還元」する、というのは景気循環の波の幅を自動的に小さくする(ビルトインスタビライザー)というケインズ型財政政策の真逆を行くものだ。税収が予想を下回る年には、国民から「追加徴収」(逆還元)をするのか。しないだろう。つまり長期的には財政赤字が膨らむ。
予想より多くなる税収は、将来の税収不足のときに赤字を出せるように、国債発行を減らしておくか、すでに歳出増が予定されている、「子育て」「防衛費」の手当に回すべきではないのか。
物価高のために現金給付をする、というのは低所得層に限定しなければ、購買力を上げて、物価高は収まらなくなる。ガソリン価格の高騰を抑えるために石油元売りに補助金を出す、というのは、本来抑えるべきガソリン消費が変わらなく、輸入額が高まる(それは円安を招き、さらなるガソリン価格上昇につながる)し、車を運転せず公共交通機関を使う人たちへの差別的扱いにもなる。