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2023.12.04 14:00

「経済、経済、経済」経済学的に問題が多い分配の政策

Forbes JAPAN編集部
さらに、所信表明演説を聞いていて不思議に思ったのは、今回の経済政策が、2年前に打ち出していた経済政策とあまりにも違うことである。2年前の岸田首相の所信表明演説(令和3年10月8日)では、「新自由主義的な政策」を批判する一方、「新しい資本主義」「成長と分配の好循環」など、中間左派(日本のリベラル)を思わせる言葉がならんでいた。

新しい資本主義を実現する車の両輪は、成長戦略と分配戦略とした。しかし「新しい資本主義」の内容は具体的に語られることはなく、「新しい資本主義実現会議」を設立してビジョンを具体化させる、とした。

成長戦略として、「デジタル田園都市国家構想」があげられていた。分配戦略では、看護、介護、保育などの現場で働いている人たちの収入増加があげられていた。前者は具体策が見えてこない。後者は今でも、問題として残っていてようやく報酬の引き上げへ検討に入ったところだ。

2年前にあれだけ強調していた「新しい資本主義」は、今回の所信表明演説には一度も登場しない。「分配」は1か所だけ、「デジタル田園都市国家構想」も1か所だけだ。いずれもこれまでの具体的な政策が語られているわけではない。官邸では、新しい資本主義実現会議が続いている。

鳴り物入りで登場した「新しい資本主義」「デジタル田園都市国家構想」が、2年たっても具体的な姿が見えてこないのに、「経済、経済、経済」と連呼されても、あまり響かない。経済政策の具体策が見たい。


伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学客員教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D.取得)。1991年一橋大学教授、2002~14年東京大学教授。近著に、『Manag i ng Cur rency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2ndEdition、共著)。

文=伊藤 隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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