組織のなかで担う役割は、年代ごとに変化していきます。なかでも30代は若手と中堅をつなぐ重要な存在であり、一段高い視点から職場を見渡して人の強さや弱さを見抜くと同時に、ビジネス上の無理な戦いを避けて、強さが発揮できるタイミングに勝負をかけるなど、より賢く、より戦略的な役割が求められます。
ただ、その反面で、これまでのやり方が通用しなくなり、いろいろなことがうまくいかなくなるのもまたこの30代。本書には、あらゆる勝負事に勝つための書として現代でも読み継がれている「孫子の兵法」をヒントに、難しい30代が向き合うべき課題がまとめられています。
私が起業したのは、30代を目前とした2019年のことでした。その11年前、日本ラグビーフットボール協会会からの派遣によりラグビー最強国ニュージーランドにいた私は、東日本大震災の17日前に発生した「カンタベリー地震」に遭遇。突然の大きな揺れで瓦礫の下敷きとなり、その後、目の当たりにした全ての機能を失った街と、被災した多くの人の姿に大きな衝撃を受けたのです。救いだったのは、人々が明るく前向きだったこと。ただ、復興に尽力する人がいる一方で、街には失業者がみるみる増加していきました。
日本などの先進国では、被災地の復興に向けて膨大な資金が迅速に投入されますが、そうでなければ、インフラ等の機能停止は企業や人々の生活に影響を及ぼし、混乱を長期化、かつ深刻化させてしまいます。私はニュージーランドでがれきの撤去や液状化現象の泥を除去しながら、社会全体を再生させるための「金融」の力を強く感じていました。
帰国後、就職し金融の知識を身につけた私は、深刻な継承者不足を救う「サーチファンド」という手法を用いたM&A会社を立ち上げました。起業してまもなく、新型コロナウイルス感染拡大という事態に陥ったものの、それを機に事業承継を決断された方も多かったことから、ビジネスは順調に拡大してきました。会社の成長に伴い、フロントライナーとして走り続けてきた私の役割も徐々に変化し、今では、社員の個性を生かしながら、彼らを守るためのガバナンスを強化することが主な仕事となりましたが、短期間で振り返ることができたのは本書を読んでいたおかげでしょう。
現代の日本が抱える社会問題は、今後、海外でも起こりうる問題です。被災後に経営が成り立たず、倒産した企業や失業した従業員の姿を見て、無力さを感じた自分──。本書をきっかけに30代で金融の世界で力をつけたいと強く願ったあの光景を忘れることなく、使命感を持って40代までにさらに高く飛びたいと思っています。
title/30代からの『孫子の兵法』ー負けない戦略を身につけるー
author/染井大和
data/あさ出版 1,540円/177ページ
profile/ライター。情報サービス企業から転身し、独立。ビジネス書、自己啓発書などの構成・執筆を手がける。これまでに2000人以上の多様な職業人へ取材し、その体験を通して得た人々のリアルと、古典のエッセンスをわかりやすく解説する。
なかしま・みつお◎1989年、福岡県生まれ。創価大学経済学部卒業。2011年からニュージーランドのラグビークラブチームでプレイ。13年に帰国しGE日本法人に入社。その後、M&Aキャピタルパートナーズなどで活躍し、19年にグロウシックスキャピタルを立ち上げ、現在に至る。