しかし、もしパートナーから、いつも笑顔を絶やさず、何があろうとポジティブでいるよう言われたらどうだろうか。つまり、面倒なことがあっても騒ぎ立てず、なかったことにしろというわけだ。これは、心理学者の言う「有害なポジティブさ(toxic positivity)」だ。そして、認めたくないかもしれないが、こうした有害な関係は、恋愛関係ではしばしば見られる。
特にパートナーとの関係では、作り笑いを顔に貼りつけたままでいるよりも、自分の本当の感情に忠実でいるほうがずっと良い。その理由がいま、研究で解明されつつある。そして心理学者たちは、パートナーとの関係で互いのありのままを受け入れているかどうかを評価する方法も考案している。
「有害なポジティブさ」と「感情を押し殺すこと」が招く問題とは
メンタルヘルスを巡る問題を人々が自覚し受け入れているかを調査する研究の一環として、研究者たちは、有害なポジティブさがウェルビーイングにもたらす影響について探った。有害なポジティブさとは、たとえ本当はそうでなくとも、何も問題がないふりをするよう求める社会的な圧力のことだ。この研究論文で著者たちは、「脳に虚偽のウェルネスを強要すると、我々は脳に対して、自分たちが抱く感情は、それがどういう感情であれ、ある意味で悪いもの、あるいは危険なものだ、というメッセージを送ることになる」と述べている。
感情的な不快さを避けようとするとき、知らず知らずのうちに、そうした感情が心の裏側でさらに大きくなったり、どうしようもなく強いものになったりする可能性がある。本当の感情を押し殺すと、傷跡が残る。そして、思いがけないときにその感情が忍び寄ってくる。感情的な不快さを避けようとしても、その存在を消せるわけではなく、むしろ拡大してしまうのだ。