「悪い男に理不尽に利用され、後になって『だまされた』と頭では理解できても心の中はいつまでも割り切れない。本気で相手を好きになった点も含めて、よく似ているな、と感じる」
鴨志田さんは、被害者側の状況だけではなく、加害者側の目線にも目を向ける。少女を都合よく利用して金づるにした男と、都合のいい自白を維持させるためにジュースを飲ませたり抱擁に応じて労わる素振りを見せて犯人に仕立てた刑事。その両者に女性を見下す同じ“目線”を感じる、という。
「社会経験の少ない未熟な女性に対し、優越的な立場にいる男が『こう扱えば自由にできる』と相手を見下し、自分の利益を得るためにたぶらかすような真似をしたという点で、美人局の男と刑事とには共通する感覚があるように思います。その結果、ひどく心を傷つけ、女性の尊厳を踏みにじったことは両者とも同じです」
警察側が「不正や違法な手口を一方的にエスカレート」
さらに詳しく分析した上で、この冤罪事件を検証する。「滋賀県警の取り調べで、法的な問題はいくつもあります。飲食物の提供は利益供与にあたるし、起訴後の面会は違法です。ジュースを毎日のように差し入れ、起訴後の面会は10回以上も。こんなこと聞いたことがない。異常としか言いようがありません。なにがなんでも犯人に仕立てようとして、殺人の自白を維持させるために歯止めが効かなくなっていた印象を受ける」
西山さんは「殺してない」と訴えても無視され、刑事の思惑通りに殺人犯に仕立てられた。冤罪の罠に落ちた無実の人に“自己責任論”を持ち出す声に対し、鴨志田さんはこう反論する。
「不正や違法な手口を一方的にエスカレートさせたのは警察です。無実の“若い女性”が逮捕されて留置場に入れられ、取り調べ中には、女性警察官を室外に控えさせることで2人きりの状況を意図的につくっていた。未熟さと寂しさにつけ込んで、好意を向けさせるために不正な手段をどんどん重ねた。エスカレートする警察に乗せられた彼女に落ち度があるというのは、筋違いでしょう」
美人局の男は金のため、刑事は出世欲のため、女性に大きな犠牲を負わせた、ということになる。しかし、両者には「見落とせない決定的な違いがある」と鴨志田さんは強調する。
「美人局は男も女も民間人ですが、取り調べは公権力なわけです。西山さんのケースは公権力が税金を使ってやったこと。市民として見過ごしてはならないのは、ここです」