議会はまだ2024年度の連邦政府予算案を承認しておらず、政府機関があわや閉鎖となる事態が何度か発生してきた。こうした中、NASAは今月、この先起こりうる予算削減を見越した措置として、費用が80億~110億ドル(約1兆2000億~1兆6000億円)と推定される火星の岩石サンプル回収ミッションに関連する「活動の縮小開始」を3つのフィールドセンターに指示した。
上下両院の議員6人は21日、NASAのビル・ネルソン長官に宛てた書簡で、NASAの「軽率な決定」に「困惑」していると表明。「同ミッションは、戦略的宇宙技術における競争で他国を大きくリードし、中国がもたらす国家安全保障上の課題に対応し、私たちが現在持つ競争上の優位性を維持するために不可欠だ」と指摘し、活動縮小により、2030年代までのサンプル回収というスケジュールを守れなくなると主張した。
また「米企業を支える数十億ドル規模の契約が破棄の対象となり、カリフォルニア州の数百件の高技能職が失われる」とも警告した。同ミッションの協力企業には、ロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマン、シエラネバダ・コーポレーション、ハニービー・ロボティクスが含まれる。
火星サンプルリターン(MSR)ミッションは、2022年の「惑星科学10年調査」でNASAの最優先課題に指定された。目的は、2021年2月に火星に着陸した探査機「パーシビアランス」が採取したちりや岩石のサンプルを、3段階のミッションで地球に持ち帰ることにある。サンプルを分析することで、火星に生命が存在したかどうか、将来生命が居住できるかという疑問の解明につながることが期待されている。
パーシビアランスはすでに第1段階を終え、採取した岩石やちりを8本のチューブに入れて回収した。チューブはサンプルを数十年間にわたり安全に保管できる仕様となっている。
2028年に予定されている第2段階では、チューブが2基目のローバーによって回収され、小型ロケットに積み込まれて火星から打ち上げられる。第3段階では、ロケットが大型宇宙船に回収され、2030年代の初めまたは半ばにサンプルを地球に持ち帰る。
NASAの2023会計年度(22年10月1日~23年9月30日)の予算は254億ドル(約3兆8000億円)だった。バイデン政権は、2024会計年度のNASA予算として、前年比7.1%増の272億ドル(約4兆1000億円)を提案している。だが今年度の予算はまだ承認されておらず、議会は政府機関閉鎖を避けるためのつなぎ予算案を何度か可決している。
(forbes.com 原文)