そうした中、全国の自治体でシニア向けオンラインコミュニティを創出し、認知症の予防と早期発見につなげていく取り組みが広がりつつある。神戸市の「Be Smart KOBEプロジェクト」で、認知症にまつわる社会課題に取り組むスタートアップ、ジョージ・アンド・ショーンと、三井住友海上火災保険が提供する実証事業もその一つだ。
なぜオフラインでなく、オンラインコミュニティなのか
「Be Smart KOBE」は、神戸市がスマートシティ推進を目的として市民向けサービスのアイディアを募り、その実証や展開を支援するプロジェクトだ。ジョージ・アンド・ショーンと三井住友海上火災保険は10月から、市内に住む65歳以上のシニアを対象に、ジョージ・アンド・ショーンが開発する「オンラインサービス 『brainco』を活用した、 フレイル・認知症予防コミュニティ創出事業」を展開している。具体的には、シニアに計50台のタブレット端末を配布し、オンライン体験教室やオンライン旅行などのコンテンツを提供。シニア同士をネットワークで繋ぐことで、ともすれば家に閉じこもりがちなシニアの社会参画を促し、コミュニティの創出を目指す。ジョージ・アンド・ショーンはその中で、コンテンツの企画開発や認知機能推定などを手がけている。
同社は、代表の井上憲の祖母が認知症を患ったことをきっかけに、2016年に設立された。これまで、ビーコンを活用した位置情報見守りタグ「biblle(ビブル)」や、高齢者施設向け安否確認システム「施設360°(シセツサンロクマル)」などを提供。日本全国の自治体や大学などと連携しながら、認知症に関する社会課題解決を目的とした事業を展開してきた。そんな井上は現在、日本オラクルでソーシャルデザイン推進本部 本部長としての顔も持つ。
「祖母が認知症になり、自分たち家族のことを忘れていってしまうことがすごく悲しくて。祖母にはできればもっと長い間、体だけでなく脳も健康でいてほしかった。それで何とか認知症の予防に貢献したいと、コミュニティ創出事業を始めました」(井上)
しかし市内にはすでに、公民館などで活動するシニアのオフラインコミュニティが存在する。あえてオンラインでコミュニティを創出する意義はどこにあるのか。
「地域でオフラインコミュニティに参加しているシニアの割合は、高くて2割ほどです。しかも、女性が圧倒的に多い。シニアの男性は、『面倒臭い』『俺はかつて企業で働いていたんだ』などとおっしゃって、なかなか参加されない傾向があります。ですがオンラインの場合、設定によって参加者が顔を表示する必要はなく、発言する必要もありません。シニアがコミュニティに参加するハードルを大きく下げられます。そしてオフラインコミュニティ参加までのステップにもなります」(井上)
検査を敬遠しがちなシニアの認知機能も、高精度で推定できる
さらに同サービスの大きな特徴として、オンラインコミュニティの創出だけでなく、シニア本人の許可を得たうえで、それらのサービス利用データをもとに、認知機能をAIで推定できることが挙げられる。最終的には、介護予防費の抑制に貢献する狙いもある。そうした一連の流れで、自治体の実証協力のもとサービスを提供する企業は、国内では他にほとんど見られない。井上は狙いを、次のように語る。フレイル・認知症予防コミュニティ創出事業の全体像