気候変動対策に人的資本経営。日本企業のマネジメント層の方々と話をすると、その年の経営のトレンドがよくわかる。出てくるキーワードが大抵、同じだからだ。もちろん、どのキーワードも企業が取り組むべき重要なテーマであり、未来を左右するアジェンダばかりである。
だが一方で、国内トレンドに左右されていていいのだろうか、日本国内のトレンドはグローバル社会から一歩遅れているのではないか──。そんな一抹の不安を覚えることがあるのも確かだ。
2023年1月にスイス・ダボスで開催された世界経済フォーラムの年次総会、通称「ダボス会議」では480以上のセッションが開かれた。プログラムの一覧を見たとき、世界の議題は一歩進んでいると思わざるを得なかった。例えば環境問題。脱炭素は議題の中心の一つ。だが、水は?土壌は?生物多様性は?密接に絡み合うこれらの問題に日本企業は十分に目を向けているだろうか。
今回の特集は、このような問題意識をベースに生まれた。特集の軸を構成するのは「自然資本」「人的資本」「ガバナンス」に「ステークホルダー資本主義」を加えた4つのランキングだ。いずれもグローバルで一歩先をいく議論がなされているテーマばかりである。自然資本をはじめ、日本ではまだ馴染みの薄いと思われるキーワードもある。だからこそ、半歩先をゆく企業にスポットライトを当てたい。そんな思いを込めた。
特集のメーンに据えた「ステークホルダー資本主義」は決して新しい概念ではない。米ビジネス・ラウンドテーブルは19年に出した声明ですべてのステークホルダーの利益を追求すると宣言している。20年にはダボス会議の主題にもなった。それでもメーンに据えたのは、このランキングからは各企業の「偉大な個性」が浮き彫りになるからだ。
従業員、株主、サプライヤー・地域、顧客・消費者、そして地球。これら5つのステークホルダーはいずれも企業経営に欠かせない存在だ。各ステークホルダーの利益を満たすという点では、押し並べて「合格点」を取る必要がある。
だが、そこから先は個性の勝負だ。自社の強みは何か。目指す世界はどこか。どのように企業価値を向上させていくのが自社にとってベストなのか。各企業が持つパーパスやビジョンによって磨き上げたいポイントは異なる。そして、メッセージとともに個性を強く打ち出すことこそが競合相手との差別化につながる。
没個性で競争を勝ち抜くことはできない。一定基準を満たした先で自社の強みを発揮し、偉大な個性を磨き上げる。私たちはそこに、新しい「いい会社」の姿を見ることができる。