バカ・ムエルタの天然ガス埋蔵量は米テキサス州の「イーグル・フォード」鉱区や「パーミアン」鉱区に匹敵する300兆立方フィート(1立方フィートは約0.028立方m)にのぼる可能性があるが、これまで10%足らずしか開発されていない。YPFとマレーシアの国営石油会社ペトロナスが100億ドル(約1兆5000億円)を投じて液化天然ガス(LNG)輸出ターミナルの建設を進めるなど、開発への期待は大きい。
アルゼンチンでの石油や天然ガスの開発には米シェブロン、英BP、フランスのトタル、ノルウェーのエクイノールといった欧米の石油大手も進出しており、すでに内陸や沖合で掘削を行っている。アルゼンチンの東に広がる大西洋の海底下の地質は、数千km離れたアフリカ西部ナミビア沖のものと似ている(大昔、南米大陸とアフリカ大陸は陸続きだった)。ナミビアでは最近の試掘で大型の石油鉱区が見つかっているので、石油大手各社はアルゼンチンでの発見にも期待を寄せる。米エクソンモービルは今年、アルゼンチンにある約2000平方kmほどの権益について、売却の可能性を含めて見直すと発表しているが、ミレイの当選で残留を決めるかもしれない。
時期尚早なのを承知したうえで、アルゼンチンの「石油ブーム」で個人として最大の勝者になりそうな候補をひとり挙げるなら、アルゼンチンで発電や風力発電所、石油化学などを手がけるパムパ・エネルヒアのマルコス・マルセロ・ミンドリン会長(59)だろう。同社はアルゼンチンで石油を日量5万バレル生産しており、2200井を掘削できる鉱区を所有しているとしている。ミレイの当選を受けてパムパの株価も20日に18%上昇し、全体の17%に相当するミンドリンの持ち株の価値も4億ドル(約600億円)超に高まった。
国民は変革を求めている。ミレイは年間120億ドル(約1兆8000億円)にのぼるエネルギー補助金の削減や、価格統制や燃料不足の解消、近隣諸国から天然ガスを輸入(2022年は額にして50億ドル=約7500億円)せざるを得ない状況からの脱却に取り組む考えも示している。