事業継承

2023.11.23 11:30

M&Aの失敗事例から学ぶ 買収側は「油断」と「悪意」に気をつけよ

shutterstock

前回のコラムではM&Aの売却側の企業における失敗事例を挙げた。今回は買収側における失敗事例を解説したい。売手と買手の失敗でどちらにも通ずるのは、「話が違うじゃないか」ということ。どのような形で失敗が生じたのか、また、どうすれば防げたのかを書き記したい。
SEE
ALSO

ビジネス

中小企業の経営者が知るべき「M&Aの失敗事例」売却編


今回のキーワードは「油断」と「悪意」だ。これをM&Aにおいて事前に察知し、対応できないと、大きなトラブルに発展することがある。ここでの事例は極端ではあるが、M&Aに長年携わってきた立場として幾度も見てきたケースだ。ぜひ失敗談からの学びをシェアしたい。

なお、事例は特定を避けるため、一部を抽象化、編集した上で紹介する。

専門家(弁護士)の確認を経て油断した

これは、COC(Change of Control、チェンジ・オブ・コントロール)条項の確認不足によりM&A後に取引先が剥落してしまった事例である。COC条項とは、M&Aなどにより経営権(支配権)が移る際、契約内容に何らかの制限がかかるとする条項のことだ。

売却企業は長年、建材卸の事業を営み、数十億円の売上を計上する優良企業であった。しかし、売上高の大半を大手ハウスメーカーに依存している状況が経営上リスクとされていた。併せて、後継者問題も相まって、自社の譲渡によりさらなる発展を目指すM&Aをすることに決めた。

専門家の意見ももらい、特に重要であるハウスメーカーとの契約についての打合せをした。業界としてCOC条項は実態に合わせて多様な準備をしなければいけないが、このときは取引基本契約を含む相手方との契約書上の約束事を確認するにとどまってしまった。買収監査でも指摘はあったが、契約書上で問題がないことから、実態の関係性が軽んじられ、M&Aが成立してしまった。

いざM&Aの事実を開示するタイミングで、このハウスメーカーが激怒した。なぜなら、買収側の企業がハウスメーカーの競合にあたるビジネスを展開していたからだ。

売却側としては一社依存の経営実態が脆弱ということから、それ以外の取引先を開拓する目的でM&Aをしようと考えていた。だが、取引の相手方の都合を考えず、また、契約書上での確認という実態を見ずしたM&Aによって取引がなくなってしまったと言えよう。

この事例の教訓は、契約書上では問題はなくとも、実務上ではOKにならないことが珍しくないということだ。

もし筆者が本件を進めるとしたら、最適な道筋を立てるための情報を集める工夫をする。たとえば、ハウスメーカーに対して買収の立場として相談を持ち掛けたり、買手側の買収ニーズを聞きに行ったりして、それぞれのM&Aへの考え方をさらに調べる。相対的にCOC条項に対する意向も引き出し、戦略に生かしていく。情報収集と関係構築が鍵になるのだ。
次ページ > 売却後、従業員が離職を加速化

文=安藤智之

ForbesBrandVoice

人気記事