ライフスタイル

2023.11.23 14:30

創始者小林一三からの時を超えたエール

贈り、贈られたモノや体験は、人生を変えるほどの力を持つことがある。企業のトップ、リーダーたちが経験した、モノや体験に介在する特別な思い入れを紹介する。自身の生き方、サクセスストーリーにも影響を及ぼしたであろう「GIFT」の逸話には人間味あふれる姿がある。希薄化も言われる現代の人間関係とは異なる、特別な関係だ。


THE GIFT #5

松岡宏泰

東宝 代表取締役社長
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現・阪急阪神東宝グループ創始者、
小林一三の手から長い時を超えて
松岡宏泰の執務室におさまる直筆の書。
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私の執務室には、創始者・小林一三の書『獨行不恥影』が飾られている。意味は「他人に見られていない時でも、良心に恥じる行いはしない。独りの時こそ、自らを慎む」。

この書は、私が2022年5月社長に就任する際、父であり当時の東宝名誉会長・松岡功が会長職を離れる間際に「必要なら使えばいい」と言って手渡したものだ。意味がわからなかったので、阪急文化財団に調べてもらうという経緯があった。父いわく、小林の長年の片腕・吉岡重三郎が約55年前に他界した後、ご遺族からこの書を譲り受けたのだという。

東宝の代々の社長がこの書を受け継いできたわけではなく、吉岡重三郎、吉岡家、松、岡功を経て、私の手元に届いたのだった。90年の歳月という歴史の重みを感じると同時に、改めて日本の映画産業の発展というバトンを託されたと、私は強く感じている。

今年、小林一三は生誕150年周年を迎え、東京での活躍を紹介する催事も開かれる。この書を見るたびに、日本の産業の礎を築いた私の曽祖父でもある小林一三の、類いまれな独創性、革新性に頭が下がる思いになる。と同時に、社長としての在り方や姿勢を私に語り掛けているようにも思えるのだ。


まつおか・ひろやす◎1966年、イタリア・ローマ生まれ。89年慶應義塾大学卒業後、92年米ピッツバーグ大学経営大学院修了。米大手エージェンシーに入社後、帰国し94年東宝東和入社。2008年に同社社長就任。14年東宝取締役、18年に常務取締役を経て22年5月より現職。

文=中沢弘子 イラスト=東海林巨樹

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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