Forbes JAPANが主催する「WOMEN AWARD」でアドバイザリーボードを務めた気鋭の経済学者が、最新の研究に基づくエビデンスを示しながら対応策を説く。
女性の労働や男女間賃金格差について長年研究してきた米ハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授が、今年、ノーベル経済学賞を受賞しました。この意義は非常に大きい。
かつては女性を対象とした研究は、経済学のなかでは傍流とみなされがちでした。その社会的重要性は、男性中心社会においては過小評価され、女性の問題を研究する女性研究者に対して「女が女の研究をしているだけ」などと揶揄する男性研究者もいたほどです。
しかし、ゴールディン教授の独創的な研究や精緻な統計分析は多くの研究者を刺激し、この10年ほど、ジェンダー研究は経済学の中心的トピックのひとつとなっています。
日本は、あらゆる指標においてジェンダーギャップが先進国で最低ランクであり、世界中から「男女格差後進国」という視線を向けられています。一方で、男女格差の解消を「喫緊の課題」ととらえている日本企業は少ない。一部のグローバルカンパニーを除くと、日本のビジネス界は概して内向きです。融資元や顧客が国内に限られていれば、変革よりも現状維持を優先したがるものでしょう。
しかし、女性が本来の能力を発揮できない企業が、10年、20年先も現在と同じ経営状態を維持できるとは思えません。その先に待っているのは、緩やかな衰退です。
第一に、そうした企業には優秀な人材が集まらなくなる。今の学生は、男女かかわらず、就職先を選ぶ際に、多様性を重視しない会社を避ける傾向があります。多様性のない職場でワークライフバランスが得られるはずがないからです。
第二に、同質性の高い集団では似たような発想しか出てこないので、企業間競争に勝ち残ることはできない。多様性によって、集団の知性が上がるのです。
言葉は悪いけれど、多様性は“面倒くさい”ものです。誰しも似たような考え方の人といるほうがラク。多様な価値観の人がいれば、その分、話をまとめるのには手間が生じます。でも、コミュニケーションコストを払うだけの価値があることは、多様性を重視するグローバル企業のトップは確実に理解しています。多様性が生産性に直結することを、彼らは日本の経営者よりもはるかに確信をもって語っていますよ。
企業の男女格差解消のポイントとなるのが、現場の決定権をもった女性管理職を増やすことです。といっても、超優秀なスーパーウーマンが出てくるのを待つのではなく、「どのような人材を社内に抱えたいのか」という長期的な人材戦略が求められます。「この女性はスキルが足りないから任せられない」ではなく「現段階では少しスキルが足りないが、やらせてみる」と挑戦的なタスクを与える。それによって将来の部長クラスが育ち、そこに続く女性が増えていくはずです。