それは、ロシア政府も承知している。このたび、ヘルソン州南部に展開するロシア軍の自動車化狙撃連隊が、前進を続けるウクライナ海兵隊に機甲反撃を試みたらしいとの情報が、数週間ぶり浮上した。
だが、ロシアにとっては良いニュースとはいえない。先週、ウクライナのドローンがクリンキの東方3~5km地点でロシア軍のT-62戦車を撃破したというのだ。
単なるT-62ではない。1960年代に製造された戦車を改良した「Obr.2022型」だ。ロシアは昨年、ウクライナ侵攻での戦車の損失が1000両を超えたため、重量41トン・4人乗りのT-62数百両を倉庫から引っ張り出して現役復帰させている。
一部のT-62は大きな改良を施さないまま前線に送られた。一方、暗視装置を元の型よりは新式の1PN96MT-02に換装し、T-62M Obr.2022として戦線復帰した車両や、反応装甲を追加してT-62MV Obr.2022となった車両もある。
T-62 Obr.2022の作戦行動に関する情報はあまり多くないが、ロシアメディアは先週、ザポリージャ州のロシア軍部隊がこの型の戦車で訓練を行っていると報じていた。
この部隊の一部が西方のクリンキ方面にも配備された可能性がある。独立系調査組織の紛争情報チーム(CIT)は、T-62について「戦線の後方で確認される数が最近増えており、ヘルソン戦線の攻勢軸に増援として送られていることが示唆される」と指摘している。
ロシア軍がクリンキの橋頭堡を攻撃するにあたりT-62MV Obr. 2022をどのように使ったか、全容は明らかになっていない。ロシア軍はT-62、T-55、T-54といった旧式戦車を即席の榴弾(りゅうだん)砲として運用し、ウクライナ軍の陣地への突撃には用いない傾向がある。
榴弾砲としてなら、T-62の115mm主砲をめいっぱい高仰角にすれば8km先まで射程に入るだろう。それだけ距離が離れていれば、ウクライナ軍の戦車やミサイルによる反撃も避けられるかもしれない。