地球軌道上では宇宙ゴミ(スペースデブリ)が年々増加しており、専門家は軌道上での活動が困難になったり、ゴミが地球に落下して死傷者が出たりする恐れがあると警告している。
NASAのブログによると、ジャスミン・モグベリ飛行士とローラル・オハラ飛行士は11月1日、ISSの定期メンテナンスのため初の船外活動に臨んだ際、作業中に工具袋を「うっかり紛失」してしまった。
宇宙飛行士らはISSのカメラで工具袋の状態を確認し、ISSと衝突する危険性は低いと判断したという。工具袋は来年3月ごろ、大気圏に突入して燃え尽きる見通し。
工具袋は新たな軌道物体として米宇宙軍(USSF)が正式に追跡しており、その位置はリアルタイムで一般公開されているため、頭上をいつ通過するかがわかる。また、地上から双眼鏡で観測もできる。明るさは6等星と同じぐらいで、天王星よりも少し暗い。
Picture taken #fromspace onboard the @Space_Station by @JAXA_jp astronaut @Astro_Satoshi
— Riccardo Rossi - IU4APB - @AstronautiCAST co-host (@RikyUnreal) November 7, 2023
EVA #89 lost tool bag ⚒️🛰️
cc @AstroJaws @lunarloral@AstroAnnimal#Expedition70 #ISSpic.twitter.com/LSMXL3aQ44
NASAによれば、工具袋を紛失したのは約7時間に及ぶ船外活動中で、飛行士らはISSの太陽電池アレイのベアリング交換や、外部カメラに干渉するケーブルの調整などのメンテナンスを行っていたという。
人類が宇宙で何かを紛失したのは今回が初めてではない。2006年、ISSにドッキング中のスペースシャトル「ディスカバリー」の船体側面で修復作業をしていたNASAのピアース・セラーズ飛行士は、使っていた「お気に入り」のヘラを誤って手放してしまった。このヘラは約4か月後に大気圏に突入した。2008年にはISSの修理に当たっていた宇宙飛行士が、総額10万ドル(約1500万円)相当の工具の入った袋をなくしており、これも数カ月後に地球に向けて落下して大気圏で燃え尽きた。2017年にも、長さ約150cmのデブリシールドが入った重さ8kg余りの袋が紛失。ボルトやばね、ワッシャー(座金)が落下してしまった事例もある。時代を遡れば、1965年に船外活動中の宇宙飛行士が手袋を紛失したこともあった。
国連が先月発表した報告書は、地球近傍の宇宙ゴミの量が増えれば、人工衛星やISSなどの宇宙ステーションに衝突する危険性が高まり、地球周回軌道上での有人活動が困難になりかねないと指摘。宇宙ゴミは少量でも人工衛星に損傷を与え、GPS(全地球測位システム)や通信の運用、気象観測などに影響を及ぼすほか、破片が散乱して周回軌道が利用できなくなると警鐘を鳴らしている。制御不能となったロケットの残骸なども地上に落下する恐れがあり、科学誌ネイチャー・アストロノミーに昨年掲載された論文によれば、こうしたロケットの破片によって今後10年間に地上で死傷者が出る確率が10%あるという。
国連の報告書によると、軌道上で追跡されている物体3万4260個のうち稼働中の衛星は25%で、残りは宇宙ゴミとされる。また、小さすぎて追跡できないデブリは約1億3000万個に上るとみられている。
(forbes.com 原文)