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2023.11.27 16:00

「おトクで便利で楽しいWESTER体験」をお客様に届ける JR西日本のDX戦略の舞台裏

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多くの企業がDX実現のためにデータ活用の高度化を目指しているものの、日本企業のデータ活用の実態を見ると、業務システムに日々大量のデータが蓄積されたまま、ほとんどの企業がデータを有効活用できていない実情が浮かび上がる。

そこで守りと攻めの経営を可能にするデータ活用基盤(インサイト・インフラ)の開発・提供によりビジネスに貢献するインサイトテクノロジー社の協力のもと、本質的なデジタル・データ活用のために、「使える」「使われる」データ基盤の構築が重要であること、またその困難さとそれを乗り越えることで広がる可能性について提示する連載を企画した。同社がDX先進企業として注目する企業の現場担当者と対談しながら、インフラ・環境整備における取り組みやこれまで乗り越えてきた障壁、今後の展望などを引き出すとともに、ソリューションの糸口を共に解き明かしていく。

第一回では、2020年11月にデジタルソリューション本部を設立以降、次々とデジタル戦略を打ち出し、10月にはデジタル戦略の推進を目的として、データ分析企業のギックスとの共同出資による新会社「TRAILBLAZER」を設立した、JR西日本のデジタルソリューション本部担当部長兼TRAILBLAZER取締役の宮崎祐丞とインサイトテクノロジー 取締役 CPOの石川雅也が語り合った。


データの宝からインサイトを得る

石川 宮崎さんは、現在はJR西日本のDX化の推進役をされていますが、当初は鉄道の土木エンジニアとして入社されたと聞いています。そのころから、DXにつながるような取り組みをされていたのでしょうか。

宮崎 はい、結果としてはやっていたということになると思います。例えば、新幹線の点検用車両である「ドクターイエロー」から集まってくるデータは、ビッグデータという言葉が流行る前から、実はビッグデータだったんですね。線路の歪みに関する膨大なデータをもとに、数学的なフィルター処理を施して、どこから直すかを決めていく、そういったところでいろいろアイデアを出して提案をしたりしていました。

石川 データ分析の素養は十分にあったということなのですね。一方で、DX化の推進のためには、ビジネス観点での洞察や、人をどう動かすかといったことも重要になると思いますが、そのあたりはどうでしたか?

宮崎 そういう意味では、土木エンジニア時代の終わりごろに、英国に留学をさせてもらったんですが、そこで外の世界を見て、視野が大きく広がりました。帰国後も、「英語ができる保線屋」というニッチな領域で重宝がられて、いろいろな部署や他社の方ともお付き合いするようになり、そこで、人の動かしかた、リーダーシップなどが身についたように思います。

石川 すばらしいですね。宮崎さんは土木エンジニアという、鉄道会社のインフラを支える部門からスタートされましたが、私はシステムのハードウェアやOSという、やはりインフラの部門からキャリアを始め、数年でほぼやり尽くしたので、もう少し上のデータベースを極めるために、日本オラクルに入りました。そこでさまざまなお客様が抱える課題のサポートをしていくなかで、顧客エンジニア向けにシステムの状態を可視化するツールの必要性を感じて、自分でつくってみたのです。で、これをオラクルからスピンアウトした新会社で提供することになり、それが28年前に創業したインサイトテクノロジーの出発点です。

宮崎 28年間のあいだに、時代時代の要望になにか変化はありましたか。

石川 インサイト(洞察)、という言葉からもわかるように、この社名には、顧客企業がデータの価値を最大化して良質な洞察を得るためのデータ活用基盤を提供したいという思いが込められています。時代の要望という意味では、データを活用したいというお客様は明確に増えてきていますので、今はデータベースの中のデータをどうやったらうまく活用できるかというところに軸足を置いた製品群をつくっています。最近だと自然言語処理にも力を入れていまして、より使いやすく、受け入れられやすいものになってきていると思います。

宮崎 確かに、弊社のユーザー部門と会話していても、データ活用の感度は上がってきていると感じますね。以前は、データといえば、エクセル上に並ぶ乗降者数などの数字のことだと思っていたユーザーが、その無機質な数字の背後に膨大な行動データという宝が眠っている可能性に気づき、データからインサイトを得て活用の幅を広げたい、と考える人が増えています。「おトクで便利で楽しいWESTER(ウェスター)体験」というキャッチフレーズが社内に浸透し、データのもつ価値に気づく人が増えてきていることを実感しています。

石川 データ利活用にあたっては、何のために、どのようにデータを分析するか、という道筋が必須なのですが、御社はその点が明確に言語化されて社内に行き渡っているということですね。
宮崎祐丞 JR西日本のデジタルソリューション本部担当部長兼TRAIL BLAZER取締役

宮崎祐丞 JR西日本のデジタルソリューション本部担当部長兼TRAILBLAZER取締役

サービス統合の舞台裏にある、技術と戦略のバランス

石川 経路検索や駅混雑度傾向などを調べられるスマートフォン向けMaaSアプリ「WESTER」のローンチに伴って、複数のサービスやポイントを統合されたということで、かなりの苦労があったのではないかと推測しますが、そのあたりを教えていただけますか。

宮崎 技術的に統合が可能になったといっても、すべてのサービスを実際に統合できるわけではありません。例えば、「WESPO」という、既に数十万人の会員がいるショッピングセンターのアプリがあるのですが、これをいきなり看板を変えて「WESTER」という、比較的鉄分の強いアプリに切り替えてしまうと、既存のユーザの不評を買う可能性が高い。なので、この場合はアプリは残して、ポイントは共通に貯められますよ、貯まったポイントで新幹線に半額で乗れますよ、というような「ウェスター体験」を訴求しましょう、というかたちで決着しました。この例に限らず、既存の20以上におよぶサービスに対して、それらをどのように整理して差配していくのがベストなのか。技術と社内政治、そしてお客様への訴求、これらの間のバランスを取るのが常に難しかったですね。

石川 サービスのUXをどう混ぜていくか、変えていくかのUX設計もそうですが、裏で技術的にどうやって混ぜていくか、というところの難しさはどうでしょうか。

宮崎 弊社の場合、「ICOCA」の基幹システムのような、常に安定稼働が宿命付けられているようなシステムと、ポイント付与機能のような、多少の遅延があってもあとで帳尻を合わせれば良いシステムが混在していまして、前者の「安定稼働が命」のようなシステムは、伝統的なSIベンダーが保守している場合が多いんです。これらは、安定稼働といえば聞こえはいいのですが、少し手を入れるにも大変なコストと時間がかかる。一方で、後者のような、社会の要請によって頻繁に改修が求められるようなシステムは、内製化率が比較的高いこともあり、比較的自由に手を入れることができます。しかし、前者の基幹システムとの連携部分に手を入れたいとなったとたんに、両者の開発サイクルの時間軸の違いの影響を受けて、改修が前に進まない、といった事態になるわけです。

これを回避するために、基幹システムのデータをいったん内製化チームの自由にできるクラウド領域に吸い上げて、そこにクラウドネイティブな技術を使ってアクセスする、というような工夫もしてはいますが、それですべてがうまくいくわけでもない。基幹システム側の開発の時間軸を意識しつつ、自由にできる範囲をどう設計していくか、というところは難しいですね。

石川 弊社のお客様でも、やはりSIベンダーの動きが遅くて、望むスピードでの改修ができないという悩みを抱える方がたくさんいらっしゃいます。御社のようにクラウド領域にデータを転送する方法のほかにも、フロントとレガシーの間に中間層を設ける方法などがあり、状況によって最適なデザイン方法は変わってきますから、おっしゃるように設計難易度は高い部分だと思います。内製化を進められているとのことですが、内製化率はどのくらいを目指していますか?

宮崎 レガシーシステムは100%外注です。WESTERのアプリやクラウド部分は徐々に内製化率を増やしていて、いまは2~3割といったところです。10月に設立した子会社のTRAILBLAZER社の戦力も入れて、5割は目指したいですね。

石川 今後、内製化率が増えていった場合に、開発の自由度を保ちつつ、組織全体としてどのように統制のとれた開発体制をとっていくかというのが重要になってくると思います。最近注目されているのが、「スポティファイモデル」と呼ばれるアジャイルな組織モデルで、アジャイルでありながら、組織構造を工夫することによって、数百人規模の開発メンバーが同一のシステムを比較的自由度高く、自律的につくり上げることができるというものになっていますので、ぜひ参考にしてみてください。

データの吸い上げという部分にも関連しますが、データの利活用やデータ基盤整備というところで、これまで苦労されたところはありますか。

宮崎 最初、6年前にデータ基盤を整備する仕事を始めたときに、外資系も含めたいろいろなサービスベンダーさんからご提案をいただきました。データレイクをつくってデータの民主化をして、ということを考えていました。が、社内でレガシーシステムのデータを1つ提供してもらうのですら三顧の礼で頭を下げないといけないという世界でしたから、億単位のコストがかかる一元化のためのパッケージを最初から導入するよりも、まずはこれとこれのシステムを繋いでデータを流し込んだらこういうことができる、といったことをクイックに始めたほうがよいと判断しました。

石川 アジャイル、スモールスタートですね。僕らも、お客様との会話のなかで、うちの社内にこれだけすごい宝がいっぱい眠っているからまとめてくれ、と言われることが多いのですが、一気にまとめてもうまくいくことは稀だと思っています。ある程度ゴールの姿を思い描いておいて、そこに向かって少しずつ進めていくうちに、ああ、こういう姿が正解なんだなというのが見えてくる。そうやって成果を積み重ねていくことで、みんなが納得しながら進めることができて、結果的にはそれが早道だったよね、ということになるケースのほうが多いですね。

宮崎 そうですね。弊社の場合だと、IC乗車券「ICOCA」やクレジットカード「J-WESTカード」の決済データ、自動改札の通過データといったユーザの行動履歴系のデータは、サービスをデザインするうえでも非常に重要なインプットになるため、早い段階から分析対象に含めるように整備してきましたが、工事系、メンテナンス系のデータなどは網羅的に統合対象とするのではなく、プロジェクトで優先度を踏まえて統合を進めるという具合にして、過剰な投資にならないよう、メリハリをつけたデータ整備をしています。
石川雅也 インサイトテクノロジー取締役 CPO

石川雅也 インサイトテクノロジー 取締役 CPO

スマホのコード決済サービスと、その先の未来へ

石川 JR西日本は、24年度中に鉄道会社としては初の「スマートフォンによるコード決済サービス」を始めるそうですね。その目的と内容について教えていただけますか。

宮崎 今春の「WESTER」、「WESTER」ポイント統合機能のローンチによって、多くのお客様に「おトクで便利で楽しいWESTER体験」を味わってもらうための舞台装置は整いました。この舞台装置を使って、さまざまなサービスの展開を計画するにあたり、重要になってくるのが、「加盟店」の存在です。加盟店が増えることで、「WESTER」経済圏が広がり、会員、加盟店、JR西日本の三者でWin-Win-Winの関係を築いていくことができるのですが、問題は、JR西日本と資本関係がない地域の魅力的な小売店に、どうしたら加盟店になっていただけるか。とくに小規模な個人経営の商店などは、お客様が交通系ICカードやクレジットカードで支払おうと思っても、決済端末導入の初期費用や、比較的高額な決済手数料を嫌って、これらが使えない店もまだまだ多いのが現状です。

そこで、こういった小規模な小売店を念頭に、初期投資はNFCタグまたはQRコードのみなのでほぼゼロで済み、決済手数料も低額に抑えた「コード決済」機能を提供することで、私たちの舞台に上がってもらう方法を考えています。「WESTER」会員ユーザは、ICOCA、J-WESTカードに次ぐ「WESTERウォレット(仮)」という決済手段をもつことで、より良い「WESTER」体験を得ることができるようになる。私たちはこれを「トリプルトラック戦略」と呼んでいます。

石川 なるほど、第三の決済システムは、加盟店の導入促進をするという意味合いが強かったんですね。御社にとっても、会員が加盟店でコード決済で買い物すると、それは会員の行動履歴として捕捉できるわけですから、より多くのデータで緻密な分析が可能になり、精度の高いキャンペーンやリコメンデーションなどにもつなぐことができる。とはいえ、鉄道会社としても前例のないコード決済事業に乗り出すにあたっては、それなりに難関が待ち受けているようにも感じますが、そのあたりはいかがでしょうか。

宮崎 おっしゃるとおりで、事業面でいうと、競合は既に大手EC、携帯電話キャリアなどの名を冠している〇〇PayなどのQR決済事業者といった、すでに数千万という会員数をかかえる強大な相手になるわけですから、戦い方が大きく変わってくると思っています。鉄道会社の競合は、これまでは弊社でいうと民鉄、航空会社だったんですよ。ですが、これから戦う相手がQR決済事業者などになると、ある意味カルチャー、扱う技術が違う土俵での戦いになるので、鉄道会社のカルチャーで育った人間だけで対峙していくのはなかなか難しい。新会社TRAILBLAZERを設立した目的のひとつは、このような新しいカルチャーで戦える人材を採用することにあります。ビジネス、分析、基盤という3職種で人材を募り、JR西日本とタッグを組んで難関を突破していくつもりです。

石川 決済系のサービスを新たに始めるとなると、大量のトランザクションを遅延なくさばくためのスケールする仕組みが必要になりますね。

宮崎 はい、そういった「落ちちゃいけない、間違っちゃいけない」というところを担保するために、どんな技術を使って実現するのか。レガシーとの組み合わせ方、スケールのしやすさ、メンテナンスのしやすさ、データ分析のしやすさなどをすべて考慮した最適なデザインを描けるアーキテクトは少ないので、社内直轄でそういう人材がいなければ、外部の力を借りる必要があると考えています。

TRAILBLAZERでも、テックリード人材を募集中ですが、正社員としての採用にこだわっているわけではなく、スポットでコンサルタントとして入ってもらう可能性も含めて、柔軟に対応していくつもりです。そもそも、私たちが求めるスキルをもった人たちが終身雇用というものに魅力を感じているとは思えないですからね。

石川 最後にお聞きしたいのが、今後の展望というか、未来の事業拡大の方向性についてです。

宮崎 未来という意味では、私たちは鉄道会社ですから、ベースとなる鉄道のメンテナンスは、安全性を確保したうえで生産性を高めるためのブレイクスルーを追求していきます。そのうえで、関連企業も巻き込んだ「WESTER体験」をお客様に提供し、それにより、個人の幸せ、ひいては、地域の活性化とグループの繁栄につなげていきます。

また、これらの事業と並行して、JR西日本で培った技術やサービスを外販することで、鉄道由来のソリューションを社会に実装していく、という世界も見据えています。最近の先端事例ですと、JAXAと共同研究で人工衛星の故障予測に取り組み始めていて、将来的な外部収益化の種になることを期待しています。

石川 鉄道技術が宇宙にまで進出する可能性があるというのは、とても夢がある話ですね。JR西日本には事業会社としての明確なビジョンがあり、データ活用の道筋もきちんと立てておられる。何より、人が想像力を拡げるときに生じるエネルギーが感じ取れます。

一方で、実際にそのビジョンを競争力のあるサービスとして実装して世の中に提供していく際には、技術的にチャレンジングな課題も出てくるのではないでしょうか。弊社には、データベース技術、データ活用技術を極めたエッジな製品や、課題解決のための知見がありますから、お役にたてるシーンも多いと思います。お互いの強みを生かし合って、共により良い未来をつくっていければと思います。

本日はありがとうございました。


石川雅也◎日本オラクルを経て1995年にインサイトテクノロジーを創業。2000社以上に導入された「Performance Insight」をはじめ、10年以上連続して国内データベース監査ログ製品市場シェアNo.1となる「PISO」などの製品開発を主導。2011年から同社のCTO(最高技術責任者)、2021年からCPO(最高製品責任者)を歴任。現在も同社の製品開発の要として、市場のニーズを見据えた先進的技術による自社製品開発の方針を定めている。

宮崎祐丞◎JR西日本のデジタルソリューション本部担当部長兼TRAILBLAZER取締役。2001年入社。新幹線の保線部門などを経て、22年より現職。23年よりTRAILBLAZER取締役を兼務。鉄道車両・地上設備メンテナンスのAI & IoTの活用による生産性向上、戦略アナリティクスによる効果的なマーケティングの実現に取り組みながら同社グループのDXをリード。


【インサイトテクノロジーについて】
1995年の創業時から一貫してデータベース技術を追究し、企業自らが良質なインサイトを得るためのデータ活用基盤「インサイト・インフラ」関連の製品をプロフェッショナルサービスとともに提供し、企業におけるデータの価値の最大化、データ利活用の統制、データガバナンスソリューションの導入に貢献している。同社が主催するデータ技術者向けカンファレンス「db tech showcase」には、世界中からデータ技術のエキスパートが講師として登壇し、毎年1,000名規模のエンジニアが参加する。

インサイトテクノロジー
https://www.insight-tec.com/

■Insight Governorについて
「Insight Governor」は、企業に散在しているデータを安全に統合・可視化し、迅速な意思決定を支援するためのDXインフラ整備ソリューションです。
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■Qlik Replicateについて
「Qlik Replicate」は、異種データベースだけでなく、メインフレーム、SAP、Salesforceなどのデータを分析基盤などへリアルタイムに連携するレプリケーションソフトウェアです。
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