社会性重視のマイクロファイナンス事業で圧倒的な業績をたたき出せる理由とは。
「2020年からの3年間はインドに集中する方向にかじを切りました。一言でいえば、この戦略が当たった」
世界のマイクロファイナンス(小口融資)史上最速で成長している五常・アンド・カンパニー(以下、五常)。創業者で代表執行役の慎泰俊は成功要因をこう話す。
五常は新興国の中小・零細事業者向け小口融資を手がける持株会社だ。23年3月期の顧客数は連結ベースで約173万人。連結収益は約186億円、連結営業利益は17.6億円で単年黒字化を達成した。
14年の創業以来、カンボジア、ミャンマー、スリランカなどで事業を展開しながら土台を築いた。20年からはインドを重点市場に位置づけ、主要プレイヤーとしての地位を確立。その秘訣として、慎は経営陣選びの重要性を指摘する。キーワードは「ストリート・スマートさ」だ。
「インドには『ジュガード・イノベーション』という言葉があります。目の前の課題を、限られたリソースをうまく使って解決していく。インドで成功するには、このストリート・スマートさが重要です」
その好例が、対面チャネルとデジタルを組み合わせた「フィジタル」戦略だ。ベンダーとともに開発したデジタル・フィールド・アプリケーション(DFA)でキャッシュレス化やペーパーレス化を推進しつつ、顧客のフォローには対面チャネルを活用することで、各国での貸倒率は1〜2%と低水準で推移している。
「頭でっかちな人はデジタルで全部終わらせようとしがちですが、デジタル完結型で成功しているマイクロファイナンスの事例はほぼない。インドには優秀なベンダーが多いので、アプリも自社開発にこだわらないほうがうまくいく。現地の経営陣には『現場を見る限り、これが最適解』というのを見いだせる地頭の良さを求めています」
「民間セクターの世界銀行をつくり、世界中に金融包摂を届ける」目標を掲げ、創業以来、慎は志を共にする仲間と社会的インパクトの創出にコミットしてきた。共同創業者でCIO(チーフ・インベストメント・オフィサー)のサンジェイ・ガンディは慎に初めて会った日をこう振り返る。
「(在日朝鮮人として生まれ育った)テジュン(泰俊)の物語や、彼がなぜマイクロファイナンスをやりたいのかという話には説得力と哲学があった」
その日からおよそ10年。24年からは事業をグローバルに統合し、規模の経済を発揮していく新たなフェーズに入る。目標は「残り10年で、良質で低価格な金融サービスを50カ国・1億人の顧客に届ける」こと。競争を勝ち抜く秘訣として、慎は五常の3つの強みを挙げる。