経営者が座右の書とする漫画作品を紹介する連載「社長の偏愛漫画」。自身の人生観や経営哲学に影響を与えた漫画について、第一線で活躍するビジネスリーダーたちが熱く語ります。
第17回目は、Activ8の大坂武史が登場します。聞き手を務めるのは、漫画を愛してやまないTSUTAYAの名物企画人、栗俣力也。
栗俣力也(以下、栗俣):『Dr.NOGUCHI』を選ばれたのは意外でした。
大坂武史(以下、大坂):両親に買い与えられた漫画のひとつでした。親としてはエンタメではなく「息子の情操教育になればいい」としか考えてなかったと思います。
栗俣:その割には、後に野口「英世」となる清作が飲んだくれている様子が何度も出てきますね。
大坂:清作は挫折するたびに飲んだくれてしまう。本当に弱いんですよね。酒に溺れて、世話になっている人に借金しにいったり、その金で遊郭に遊びに行ったりする。とんでもない駄目人間だったのですが、間違いなく彼が成し遂げたことは素晴らしい偉業です。偉大さと人間性というものは、まったくイコールではないという教訓のような人だと思っています。逆にいえば、そういう弱い部分がありながらも、人類史に残るような偉業を成し遂げられた部分に、とてもリスペクトを感じています。
栗俣:なるほど。ここで描かれている野口って、すごくケンカ早い。自分の気が赴くままに生きている。借金を何度も繰り返して怒られて、ようやくお金を自分でどうにかするタイプの人間だったということが史実でも言われています。そんな人が、偉業を達成する。逆に言えば、それぐらい自由な人のほうが偉業を達成できたりするんでしょうか。
大坂:そういう自由な発想、枠にとらわれない発想がなければ、そもそも当時海外なんて目指さないでしょうね。田舎出身のコンプレックスもあるんじゃないでしょうか。もしかすると父もそういう共感があって、この本をチョイスしたのかもしれないです。自分自身、東北から東京に出てきて「こんなに情報量が違う」とか「こんなに与えられる機会が違う」のは、とてつもなく不平等だなと思いました。
野口も大学を出てないじゃないですか。大学を出ずに医師国家試験に一発合格する。すごいことですが、逆に言うと後ろ盾がない。学歴がないんですよね。それで帝大卒の人にいじめられるエピソードも、誇張されているとは思いますが描かれていたりします。かつ、左手に障害があって、家がメチャクチャ貧乏。あきらめようと思ったらいくらでもあきらめられる環境です。それでも関係なしに医者を目指す。ましてやトップ・オブ・トップの研究所(北里柴三郎の伝染病研究所)に執念と実力で入所を果たし、ロックフェラー財団から支援を受けて世界的な偉業を成し遂げた。
人間性が低いところがあって、その弱さのはけ口、解消の仕方はあまり手本にできたものではないですが、そんな弱い自分と同じような人間でも最初から境遇やハンディキャップを言い訳にせず世界史に残る偉業を果たした。逃げない、言い訳しない、諦めないマインドセットが、彼が偉業を成し遂げた理由の一つではないかと思います。
むしろ彼の不遇の運命こそが彼を偉業の達成に駆り立てた。達成せねばならないという使命というか、必然性を彼にもたせたのかもしれないですね。