カリフォルニア州アーバインに本拠を置くH2MOFは、ゼロ・エミッションの燃料電池車で駆動する大型トラックのメーカーに向け、2024年以降に次世代水素タンクを提供する計画だ。同社の水素タンクは、車載向けだけでなく、トラックや鉄道による輸送においても、優れたソリューションになるという。
H2MOFは、従来のように水素を高圧で圧縮したり、液化してタンクに充填するのではなく、固体状態で保持し、特別に設計されたナノ材料に吸着させるタンクを設計した。この手法は、同社の共同創業者で科学アドバイザーでもある2人の科学者の研究に基づいている。1人は、カリフォルニア大学バークレー校の化学教授であるオマー・ヤギー(Omar Yaghi)で、もう1人は2016年にノーベル化学賞を受賞したフレイザー・ストッダート卿(Fraser Stoddart)だ。
「水素分子はその性質上、取り扱いが非常に困難であるため、これまで貯蔵技術でブレークスルーは見られなかった。ストッダート教授とヤギー教授は原子レベルの精度で新素材を設計する必要があると考えた」と、H2MOFの共同創業者兼CEOであるサメル・タハ(Samer Taha)は述べている。
新素材「MOF」の活用
H2MOFは、水素貯蔵用に原子レベルで設計された金属有機構造体(MOF:Metal Organic Frameworks)を世界で初めて商品化することを目指しているが、この技術を追求しているのは同社だけではない。サイエンス誌によると、ローレンス・バークレー国立研究所の科学者たちは最近、水素を貯蔵するために開発したアルミニウムベースのMOFに関する研究を発表したという(H2MOFの社名は、水素を表すH2とMOFを組み合わせたものだ。同社の共同創業者であるヤギーは、MOFの合成の開発者として知られる)。「MOFは、有機材料と金属原子のこれまでにない組み合わせで、ナノスケールでの結晶構造だ」とタハは説明する。
H2MOFは、スポンジが水を吸収するように水素原子を引き込んで保持するように設計された、結晶のような素材で作られたプロトタイプをテストしている。トヨタの燃料電池自動車「MIRAI」に使われている炭素繊維を巻き付けたタンクの場合、1平方インチ当たり1万ポンドの圧力をかける必要がある。これに対し、H2MOFのタンクは、1平方インチあたり300ポンド以下の圧力で済む予定だ。