微生物からAI、宇宙まで 日本発「ネイチャーポジティブ」に資する50社

生物多様性の損失を食い止め、回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」への注目が経済界で高まっている。「Forbes JAPAN 2023年11月号」では、先進的なプレイヤーたちの取り組みを特集した。

ネイチャーポジティブの実現には多種多様なアプローチが考えられる。そこに貢献しうる日本発のビジネス/プロジェクトを一挙公開しよう。


インパクトの大きさ、革新性と実現性、自然との関係性の深さを基準に、国内のベンチャー企業や団体から選定。自然を質的に強化したり、量的に増やしたりする直接的な取り組みはもちろん、間接的にそれを支援するものも含めた。カテゴリーは、生態系の調査や分析などの可視化(VISUALIZATION)、生態系の質的・量的保全や自然の能力を引き出す解決策などの回復(REGENERATIVE)、資源の利用効率を向上する技術などの最適化(OPTIMIZATION)、新たな資源や再生可能素材などの代替手段(ALTERNATIVE)の4つに分類。選定にあたっては有識者であるレスポンスアビリティ・足立直樹、MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス・原口真、環境省・浜島直子、アクセンチュア・齋藤倫玲、PwCコンサルティング・服部徹から助言をもらい、編集部で決めた。

バイオーム

代表者|藤木庄五郎 設立|2017年

唯一無二のリアルタイム生物分布データ
身近な公園や散歩道で見つけた動植物や昆虫など多種多様な生物の情報を蓄積・共有できる生き物図鑑アプリ「biome」を運営。地方自治体や民間企業とタイアップした企画も推進する。これをもとにリアルタイムで大量の生物分布データを収集。絶滅危惧種の調査や密猟対策など、生態系保全のためのデータ活用ビジネスを展開する。

イノカ

代表者|高倉葉太 設立|2019年

海の生態系を水槽中に再現する環境移送技術
日本有数のサンゴ飼育技術をもつアクアリストと、IoT・AI技術を組み合わせることで、任意の生態系を水槽内に再現する環境移送技術の研究開発を行う。2022年2月には、完全人工環境下での真冬のサンゴの産卵に世界で初めて成功した。環境移送技術を応用して、企業の事業活動が海の生態系に与える影響を調査・分析する取り組みも推進。

FullDepth

代表者|吉賀智司 設立|2014年

海洋生態系の探索を高度化する水中ドローン
産業用水中ドローン「DiveUnit300」を開発する筑波大学発スタートアップ。潜水士が業務で潜行できるのは約40m程度だが、同ドローンでは最大深度300mまでの潜行が可能。水中インフラの維持・管理をはじめ、漁礁の調査や定置網の点検、海底資源や深海生物の探査など、幅広く利用できる。水中ドローンの自動航行による海底マッピングにも取り組む。

sustainacraft

代表者|末次浩詩 設立|2021年

透明性の高い森林評価技術
衛星リモートセンシング技術を用いた安価で広範囲な自然資源の炭素蓄積量モニタリングと、因果推論技術をベースにしたカーボンクレジットの複雑な参照レベルやリーケージの評価というふたつのソリューションを提供。透明性の高い森林評価技術でクレジットの信頼性を高め、自然保全への健全な資金循環を生み出すことを目指している。

シンク・ネイチャー

代表者|久保田康裕 設立|2019年

網羅的な生態系ビッグデータを構築
琉球大学理学部久保田研究室発のスタートアップ。世界の陸・淡水・海を網羅した野生生物の時空間分布や遺伝子、機能特性、生態特性などのビッグデータを構築しており、AIを用いた予測やシナリオ分析を行う。2023年4月には、企業や金融機関を対象に生物多様性への事業インパクトの評価サービスの試験的提供を開始した。

aiESG

代表者|馬奈木俊介 設立|2022年

包括的なESG分析サービス
包括的なESG分析サービスを手がける九州大学発スタートアップ。独自のビッグデータを用いたAI分析により、3,200余りのESG指標について詳細な試算が可能。生物多様性やCO2、人権、労働環境などを含め、社会面やガバナンス面を定量的に評価できる。従来のライフサイクルアセスメント(LCA)では困難だった地理的試算にも対応。

ANEMONEコンソーシアム

代表者|近藤倫生 設立|2022年

バケツ一杯で生体分布がわかる環境DNA
東北大学大学院生命科学研究科教授の近藤倫生が立ち上げた、環境DNAを利用した生物多様性観測ネットワーク構築プロジェクト。環境DNAとは、水中や土壌など環境のなかに存在する生物由来のDNAのことで、バケツ一杯から存在する生物の種類や分布を調べられる。2022年6月、生き物の天気図を示すオープンデータを世界で初めて公開。

ピリカ

代表者|小嶌不二夫 設立|2011年

流出ごみ計測の世界共通の基準をつくる
120以上の国・地域で利用されているごみ拾いSNSを運営。流出ごみを計測する世界共通の基準づくりに向けて、路上に散乱したごみの分布や深刻さを調査・可視化するサービス「タカノメ」、マイクロプラスティックの流出メカニズムや解決策を探る調査サービス「アルバトロス」も提供。2040年までに世界のごみ流出量と回収量を逆転させることを目指す。

サイエンスグルーヴ

代表者|宮崎悠矢 設立|2019年

「仮想生態系」で新たな理科教育を提示
教育用シミュレーションゲームを手がける。高等学校の教科書に記載されている科学的モデルを「仮想生態系」のなかで再現し、ゲーム感覚で生態系を学習できるシステム「Virtual ECOSYSTEM」を開発。人間の介在が森林の生物多様性に与える影響などを疑似的に体験できる授業パッケージとして提供。新たな理科教育のあり方を提示する。

ウミトロン

代表者|藤原 謙 設立|2016年

テクノロジーで水産養殖を持続可能に
IoT、衛星リモートセンシング、機械学習などの技術を活用し、「持続可能な水産養殖を地球に実装する」をミッションに掲げる。衛星データを用いた海洋データサービス「UMITRON PULSE」、AI・IoT活用の水産養殖者向けスマート給餌機、魚群の食欲を解析するシステムなどを提供。養殖真鯛などのサステナブルシーフードも展開。
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文=フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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