ヘッドフォンをつけて何かを聴きながらウォーキングする人が多いが、新たなトレンド「サイレントウォーキング」が注目を浴びている。テクノロジーの類いをいっさい使わず、周囲の物理的環境に浸りながら1人静かに歩くウォーキングだ。
いつもの散歩をサイレントウォーキングに変えるだけで、メンタルヘルスにいくつかの効果がもたらされると、サイレントウォーキング推奨派は力説している。
しかし、1つ疑問が残る。サイレントウォーキングの効果には科学的な根拠があるのだろうか。ウォーキングはもともと健康に良いとされる習慣だが、何も聴かずに静かに歩くと、どのくらいのプラス効果が得られるのだろうか。
以下では、今度ウォーキングに出かけるときには1人静かに歩くべき理由を2つ説明したい。
1. 静寂は脳の発達を促す可能性がある
脳の構造と機能に関する科学誌『Brain Structure and Function』で2013年に発表された研究では、マウスを使った実験の結果、静寂がニューロン新生(新たな脳細胞の生成)を促す触媒的な作用をもつ可能性があることがわかった。研究チームが、マウスを異なる聴環境にさらす実験を行ったところ、静かな環境では、ニューロン新生に欠かせない前駆細胞の生成が増加したことを発見した。前駆細胞は徐々に分化し、新しいニューロンをつくり出すが、それが特に活発になったのが、静寂を体験した数日後だったのだ。
こうした現象は、ホワイトノイズといった他の聴覚刺激、さらにはモーツァルトのピアノ曲を使ったときには起こらなかった。モーツァルトのピアノ曲は、最初はプラスの影響を与えていたように思われたが、同じようなニューロンの持続的成長には至らなかった。
確かに、人間の脳はマウスの脳よりはるかに複雑だ。しかしこの研究は、人間の脳が静寂に対してどのような反応を起こし得るかということについて、かすかながらも希望の光を当てている。
サイレントウォーキングという行為は、静寂の神経学的効果とウォーキングがもともと備えている「知的鋭敏さの向上」という効果を一体化し、脳のためのオールラウンドなトレーニングにしているのかもしれない。
サイレントウォーキングは、スマートフォンを携帯しないという条件を満たせば、どこでもできる。しかし、その効果を最大限に引き出したければ、静かで落ち着いた場所を選ぶことが大切だ。このことに関係するのが、2番目の理由だ。