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2023.11.29

【伊藤東凌×道下将太郎】禅と医療から見る「自分を取り戻す空間」とは

世界中の経営者が通う禅寺として有名な両足院の副住職をつとめ、禅を暮らしに取り入れるメディテーションアプリ「In Trip」の開発や、グローバルメディテーションコミュニティ「雲是」の主宰をするほか、現代アートを中心に領域の壁を超え、伝統とつなぐ試みを続ける伊藤東凌と、脳神経外科医として死や障がいに対して豊かな時間づくりのサポートを行うなど、新たな形の医療を創造する道下将太郎。領域の異なるふたりの対談から「サステナブルなまちづくり」の新たな可能性を探っていく。


誰にでも訪れる死に向けて「ウェル」な人生をつくりたい

——禅の教えを国内外に広く発信している伊藤さんと、脳神経外科医として多岐にわたる活動を続ける道下さん。それぞれの専門領域や取り組みをどう見ていますか。

道下将太郎(以下、道下):宗教と医療は一見、正反対の領域です。でも実は僕たちには共通の友人やお客様が50人以上いるんです。その多くが日本経済を支えている経営者層。時間に追われて働く中で、精神的な落ち着きを求めて東凌さんのもとを訪れ、健康度やパフォーマンスを上げたいと僕のところに来る。僕らの領域は、それぞれが独立した点ではなく、グラデーションになってつながっていると思っています。

僕にとって医療は「いまより少しでもプラスになるものを提供する」こと。人に会う、自然に触れる、アートを眺めることもすべて、プラスになる手助けだと思っています。僕から見ると、東凌さんは、悩みを抱えるご本人を納得させられる言葉や考え方を処方している人。薬の代わりに「問い」や「考え方」を処方して、本人が一歩前に進めるよう手助けをしているのかなと思います。

伊藤東凌(以下、伊藤):道下さんは、患者さんに薬を出すだけではなく、その方の死生観を見つめて話をしています。仏教には、「生きることと死ぬことはひとつである」という考え方がある。私にとっても深いテーマで、道下さんの視野の広さにはいつも感銘を受けています。

道下:僕は、20代の頃に病院で1,000人以上の死に向き合ってきました。残された人は「死んじゃった。かわいそう」というけれど、かわいそうじゃない死だってたくさんあります。生まれちゃったとは言わないのに、死んじゃったとネガティブな言葉が日本に根付いているのを変えていきたい。そんな「死のプロデュース」を、人生をかけてやろうと思いました。目指すのは「ウェルビーイング」ではなくて「ウェルダイイング」です。

伊藤:面白いですね。死をネガティブなものとして見なければ、そこに向かう旅路はまさにすべて「ウェル」になっていくということですね。

臨済宗建仁寺派両足院副住職、伊藤東凌

臨済宗建仁寺派両足院副住職、伊藤東凌

道下:僕たちは勝手に80歳や90歳で死ぬと思ってゴールを設定しているけれど、そんなことはない。若い世代が毎日のように亡くなっていく現場で、そう実感しました。「朝まで元気だったのになんで……」という家族の声が大半な中、「楽しんで生きていたし、いいんじゃない」と言える家族がごく稀にいらっしゃいます。その違いはどこからくるのかずっと考え続けてきた結果、「人生に正解はない。納得解しかない」という思いにたどり着きました。当たり前に来る死に向けて、今日をどう豊かに生きるか。死からの逆算が、「ウェルダイイング」な人生を生きることなのだと思います。

伊藤: 仏教でも「すべては思い通りにいかない」とお釈迦さまが説いているわけです。いつ死ねるのかを、人は選べない。明日はやってこないかもしれないと、いつでも終えられる準備をしながら今日を抱きしめる、ということでしょう。

道下:東凌さんの言葉には、いつもあたたかさがありますよね。誰にも相談できないことや不安を東凌さんに聞いてもらって解消する。そんな経営者の方が多いことに納得します。

薬を出すだけ、手術するだけのソリューションでは圧倒的に足りなくて、「自分は何をしんどいと思っているのか」の理解力を上げていかなければいけない。東凌さんが提供する禅の時間は、自分にとことんベクトルを向ける時間であり、とても大事だと思います。

伊藤:私がお客様に提供しているのは、時間感覚の調整や取り戻しだと思っています。

優秀な方ほど、タイムパフォーマンスを上げようとものすごくハイスピードで動いているのですが、一方でそこには毒も孕んでいます。効率を求めるあまり心身が疲れ切って、「これだけの人生は幸せじゃない」とどこかで思っていらっしゃる。

両足院を訪れるのは、時間をあえて無駄にするような過ごし方を求めているからでしょう。ただ座禅をして変化を感じたり、一杯のお茶を入れるために30分もかけたりするのは、究極の無駄です。伝統文化の中に身を置いて、時間のゼンマイをゆっくり巻き直すところに、価値があるのだと思っています。

道下:いまの世の中は思考量がすごく増えています。だから、座禅や茶道などひとつのことだけに思考を制限したり止められることに幸福感や価値を感じるのでしょう。

僕は食事や運動、睡眠などの具体的なアドバイスを処方箋として出していますが、やっていることは東凌さんと同じです。トッププレイヤーの方はマルチタスクが得意で、ずっと高速道路を運転し続けているよう。運転中に後部座席のことは考えられないのと同じで、自分の中に何が起きているかを見つめる時間もありません。気づくためにはスピードを落とさなくてはいけないけれど、アクセルを緩めることを怖がる経営者層はとても多いです。

3~4時間しか寝ない、という方には、「まずはエンジンを止めて、クオリティの高い1時間をつくることを目指しましょう」と、時間の使い方の話は必ずしています。

自然の変化、朝の美しさが感じられるまちが、人々を元気にしていく

——心地よい「時間」を作り出すために、空間やまちづくりにおいて、どんな工夫ができると思いますか。

伊藤:YNKにも神社仏閣がありますが、そういった場所へいくと、時間の流れが変わるように感じますよね。古くからある神社や寺院は、日の出と日没など天体の運行を考慮した上で、建築と庭園ともに綿密に計算され、儀式を行う時間帯にちょうど良い光が差し込むように設計されていたりします。神聖な気持ちでいたいときに、太陽が一番美しく入るような空間になっているんです。

働く人が多く集まるまちは、“自然の豊かさを愛でられる場所”を軸に、建物の配置を考えられるといいですよね。一旦仕事の手を止めて、「夕日がキレイだね」と言えるような、夕日休みが取れるスポットがひとつあるだけでも、まちの時間の流れは変わると思います。

道下:僕らは所詮“動物”で、自然の時計で生きています。デジタル時計に支配されていると、タイムラグがちょっとずつ生じて、その積み重ねがストレスになってしまう。気温や湿度、香りなど、自然の変化が感じられない場所にずっといるのはヘルシーではありません。変化が感じられる空間設計は、とても大事だと思います。

脳神経外科医師で、環境宇宙航空医学認定医、メディカルスタイリストの道下将太郎

脳神経外科医師で、環境宇宙航空医学認定医、メディカルスタイリストの道下将太郎

伊藤:自然を受け止めるという点では「朝を感じられるまち」も大切です。

お寺を訪れる人の悩みを聞いていると、ほとんどの人は夜に考え込んでいます。「夜は早く寝て、朝早く起きてこんな活動しましょう」と提案すると、それだけで悩みが小さくなっていく。朝の美しさはすごい力を持っているんです。

朝を感じられる場所をつくったら、みんなが少しずつ朝型にシフトしていって、それだけで人生の流れが良くなると思います。

道下:それは医学的にも正しくて、日中もパフォーマンスは睡眠で決まります。それなのに、みんなが寝る時間を後回しにするのは、朝イチの譲れない予定がないからです。夜の習慣を決めるのではなくて、朝イチの習慣を決めるだけで、逆算して夜早く寝るようになり、元気になるでしょう。

伊藤:仕事の前にキレイな景色を見に行って自分時間をつくる。そんな朝のきっかけづくりに、まちが関わっていけたらいいですね。

道下:もうひとつは、利便性追求と真逆の、無駄なスペースや使いにくさをそのままにした「間」をつくることも、大切な視点だと思っています。

伊藤:面白いですね。私は歩くのが好きで、徒歩でしか行けないような坂道をあえて選んだりするんです。不便だけれど楽しい。「こんなところに草が生えているな」など気づきがあるのも不便さゆえに感じられるもので、小さな幸せです。

「間」という点では、YNKのようにまちに川が流れていることってすごいことだと思うんです。

地元・京都の一番好きな場所は?と聞かれたら、迷わず鴨川と答えます。まちの東と西の「間」に鴨川があって、川の流れを眺めながらただ歩くだけで、いっぱいだった頭の中がほどけてきて楽になる。「間」をつくる川の存在によって、“水に流して、うまく手放す”というゆるさも生まれるんじゃないかなと思っています。

寄り道のできるまちが、豊かなコミュニティにつながっていく

——人が健康に過ごせる「コミュニティ」を、発展的に維持していくために、まちが果たせる役割は何だと思いますか。

道下:まちづくりの目的は何かといったら、僕は「コミュニティ形成」だと思っています。
東凌さんとも、ストレス発散法についてよく話すんですけれど、「人に相談する」ことが一番というのがふたりの共通の考えなんです。

なぜストレスが軽くなるかといったら、言葉に出し、自分の身体の外に出すことで、悩みが可視化されて、把握できるから。そこで大事なのがコミュニティ形成です。仕事やプライベート、生活水準が同じ人たちが同じ議題に対して話すことは、ストレス解消に一番いい。YNKエリアは、小さな飲み屋さんが集まる、コミュニティづくりには最適な環境だと思います。

伊藤:古くからある商店や建物、カルチャーがひしめき合っているのが、このエリアの面白さですよね。目に入る景色でタイムスリップした感覚を得られるまちになっている。私たちはいつも現実にとらわれているので、江戸の情緒がちらつくだけで、昔に思いを馳せ、自分が置かれている現在地や価値観をふと考えるきっかけになります。

道下さんも私も、本業が何か分からないくらい、いろんなプロジェクトを手掛けているじゃないですか。今日はこっちがうまくいかなくても、あっちがあるや、と思える選択肢がある。それってすごく豊かなことで、生活の充実感につながっています。

まちづくりも、いろんなお店やコミュニティがあって選べる場所である、という自由さはとても大事だと思うんです。

道下:まさにそうですね。重心をひとつに乗せすぎてしまうと、それが掬われたときにしんどくなってしまう。コアは大事だけれど、ほかにも選べる機会多ければ多いほど幸福度は高いと思っています。

伊藤:寄り道しながら、無駄なことに時間を使いながら過ごすことで、心にゆとりが生まれます。

先にお話ししたように、私は歩くのが好きなので、まちをウォーカブルな(歩きたくなる)街にすることに大賛成なんです。「今日はこっちの道を歩いてみようかな」と自由になるし、毎日ちょっとした無駄が生まれて、発見にもつながるでしょう。YNKエリアには、細街路がとても多い。毎日同じ通りを通らずにあっちこっち行ってみようと思える空間は、心地いいですね。

道下:東凌さんは、禅で座るだけじゃなくて、歩きながらメディテーションをするなど、いろんな自分時間のつくり方を持っていますよね。

家でも職場でもない、サード・プレイスのまちの中で、行き帰りに寄り道をして自分の思考をいったん止めることができるのなら、その空間はマインドフルネスな状況を生み出している。YNKでもそんな空間をつくり出すことができるんじゃないかと思っています。


伊藤東凌◎臨済宗建仁寺派 両足院副住職。1980年生まれ。建仁寺派専門道場にて修行後、15年にわたり両足院での坐禅や写経体験などの指導を行なう。いち早く寺院にヨガや美術のイベントを取り入れ、自ら田畑を耕し、食生活や暮らしに禅を取り入れるプロジェクトの実践など、禅の教えを広く積極的に発信。現代における仏教やお寺のあり方を問い続けている。アメリカFacebook本社での禅セミナーの開催やフランス、ドイツ、デンマークでの禅指導など、インターナショナルな活動も。禅を暮らしに取り入れるアプリ「InTrip」をリリース。著書に『忘我思考 一生ものの問う技術』(日経BP)など。公式サイト<https://toryoito.com/

道下将太郎◎脳神経外科医師 / 環境宇宙航空医学認定医/メディカルスタイリスト。2015年 東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。同大学脳神経外科入局。同年、環境宇宙航空医学認定医取得。2020年、死や障害に対して前向きに豊かな時間を作るサポートをする、株式会社Re・habilitationを創業。同年、表参道、銀座、新橋など、トータルコーディネートのクリニックを、Afrode clinic含め複数展開。2022年MS法人Medical Wellness Partnersを創業、東京慈恵会医科大学脳神経外科を退局。2022年、死装束などを手掛けるArt×Medicalをテーマとした31プロジェクト進行。大学時代にはハーバード大学、台湾大学含め、留学歴多数。医療の現場で直面する課題を、病院外で解決するためのプロジェクト、クリニックを複数展開。

Promoted by 東京建物 / text by Rumi Tanaka / photographs by Yutaro Yamaguchi / edit by Miki Chigira

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