なぜ、今年はこんなに早く流行したのか? 終息に向かいつつあるともいわれる新型コロナの状況と関連はあるのか?
──以下、東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授 濱田篤郎氏による記事を 時事メディカルから、一部編集の上転載で紹介する。なお、この原稿は23年9月末に書かれたものである。
9月に入り、国内でインフルエンザの患者数が増加しています。9月22日の厚生労働省の定点報告では、東京都など注意報レベルに入った自治体もあります。こうしたインフルエンザの季節外れの流行には、新型コロナウイルスの流行や今年の日本の異常気象も関係しているようです。今回はインフルエンザの季節外れの流行の原因と、今後の推移を解説します。
3シーズンぶり
日本では、インフルエンザは毎年1月ごろをピークに冬の流行を繰り返してきました。しかし、新型コロナの流行が発生して以来、21年、22年と2シーズンにわたって冬の流行が起きませんでした。この理由については、以前に本コラムでも解説したように、コロナ対策で国際交通を止めたことが大きいようです。(時事メディカル記事「新型コロナ以外の感染症が動きだした」参照)そして、昨年から国際交通が少しずつ回復したことにより、23年1月には3シーズンぶりのインフルエンザ流行が起こりました。20世紀に入ってからインフルエンザの流行が2シーズンも発生しなかったことはなく、その復活時は大きな流行になることも予想されましたが、23年1月からの流行は患者数があまり増えず、3月にはほぼ収束しました。
この時に流行が大きくならなかった理由は、当時、新型コロナが2類相当であり、国民の皆さんが感染対策を強化していたためでしょう。新型コロナもインフルエンザも基本的な予防対策は同じなので、対策強化で両者の拡大を防ぐことができたのです。
4月以降も患者発生が続く
このように、3月末にはインフルエンザの流行が収束に向かいますが、4月以降も患者数は少数ながら発生していました。この理由は、流行がしばらくなかったため、国民のインフルエンザへの免疫が低下していたことに加え、5月8日からの新型コロナの5類移行で、感染対策が緩和されたことが影響しているようです。その後も6月から8月の夏の間、例年なら流行が完全に収束している時期も、インフルエンザ患者の発生はわずかながら続きました。そして、9月に学校が新学期を迎えると、学童や学生を中心にインフルエンザの流行が一気に拡大していったのです。
この結果、9月22日の厚生労働省の発表では、インフルエンザの定点報告数が全国平均で7.03人と、1週間前の4.48人より大幅に増加しました。インフルエンザでは定点報告数が10人を超えると注意報が発令されますが、東京都など七つの自治体では注意報レベルになりました。
予想されていた早期流行
こうしたインフルエンザの早期流行は、海外の状況から、ある程度は予想されていました。例えば、米国は水際対策や感染対策の緩和が早かったため、22年1月にインフルエンザの流行が復活しています。この流行は、日本での今年(23年)1月の流行のように大きく拡大することなく収束しましたが、22年6月ごろまで少数の患者発生が続きました。そして、例年より早い22年11月から22〜23年冬の流行が始まりました。患者数も新型コロナ前を超える大きな流行になったのです。
同様な早期流行は、今年の南半球の冬にも経験されており、オーストラリアや南アフリカでは、冬が始まったばかりの6月にピークとなりました。こうした早期流行の原因も、インフルエンザへの免疫が低下していることが大きな要因になっているようです。
なお、現在、流行しているインフルエンザウイルスは従来のA型やB型で、新型コロナのように変異株が出現しているわけではありません。