出禁リストは、いわゆる「ブラック・ブック」と呼ばれるカジノゲームのイカサマ師リストのように業界のデータベースに載せて該当者を排除するものもあれば、カジノで泥酔して他の客に迷惑行為に及んだような人間を個別のカジノホテルが管理するリストに載せるものもある。
カジノ側は、私有地であり、出禁にすることになんの法的にも支障はなく、常に退場を要求できるという権利を敷地内に明示している。
ところが、数百、数千人も従業員がいるような巨大カジノとなると、リストに載っている人間を見つけて叩きだすことは容易ではない。
ブラック・ブックに載るクラスとなると、カジノのセキュリティカメラが顔を検知してただちに現場に連絡が行くというシステムがあるが、プライバシー保護の兼ね合いもあり、カジノ側が独自に管理する迷惑リストについては、その運用はまちまちだ。
「公平性」を貫いたネバダ州賭博管理委員会
最近、カジノ内で無銭飲食をして出禁になった人間が、繰り返しそのカジノにこっそり戻ってきて、7回目の「不法侵入」でジャックポットを獲得するという出来事があった。場所は、筆者の住むラスベガスから北に向かって車で約1時間半走ったところ、ネバダ州とユタ州の州境にあり、カジノが禁止されているユタ州の客を集めているカジノだ。この「カサブランカ」というカジノホテルにおいて、出禁プレーヤーのロン・ウィルソンが2000ドル(約30万円)のジャックポットを当ててしまった。
あきらかに刑法上の不法侵入罪を犯したうえで獲得した賞金だが、不法侵入罪は検察マターとはいえ、賞金の付与の是非はカジノの運営規約によるのだ。運営規約では、「不法」が介在する場合の賞金についてはカジノに支払いが免責されるとしてあるので、本来、カサブランカ・カジノに賞金を払う義務はない。
ところが今回、ロン・ウィルソンが、ネバダ州賭博管理委員会(Nevada Gaming Control Board)に紛争の仲介を訴え、同委員会はカサブランカ・カジノに賞金の支払いを命じたのだ。
このような紛争は、民事裁判によって解決する筋道がある。しかし極めて厳しい行政の管理下におかれるカジノ業界では、ネバダ州賭博管理委員会の付与するライセンスによって初めて商売をすることができるため、カジノ側としては同管理委員会による裁定は受け入れざるを得ない。
民事裁判の観点であれば、不法侵入罪を犯さなければ成り立たなかったジャックポットであり、そもそも私有地におけるカジノ規約に基づくプレイであるので、支払い拒否に軍配が上がっただろうと現地の弁護士は分析している。しかも、この出禁の人間は、自分が出禁であるということを疑う余地なく認識して忍び込んでいる。
今回の裁定は、あらためてネバダ州賭博管理委員会が、カジノ業界の成長の観点から、毅然として独自の「公平性」について保護の立場をとっていることを業界に知らしめることになった。