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が語るこれからの経営課題

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「共創型化学会社」を目指し持続的な成長と企業価値の向上を実現する新生レゾナックのDX戦略

2023年1月1日、昭和電工と昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)が統合して新会社「レゾナック」が生まれた。レゾナックは、会社の誕生を「第二創業期」と位置付け、新たな変革を進めている。

新生レゾナックが掲げるパーパス(存在意義)は、「化学の力で社会を変える」。自分たちが存在し、自分たちならではの活動を行うことにより、どのような意味や価値を社会にもたらしていけるか――。それをグローバルな視点から思考し、行動し、着実な成果として積み上げていくためには、今こそ、第二創業期という節目に相応しい「社史上、類を見ない取り組み」が必要なのではないか。

そうしたポジティブな問いを自らに投げかけたレゾナックは今、全社を挙げてDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいる。

レゾナックでDX推進の舵取りを担うのは、執行役員 最高デジタル責任者(CDO)の柴田英樹とDX推進部長の明石麻依子だ。決意と情熱を抱いた両氏がPwCコンサルティングのパートナーである茜ヶ久保友人、武藤隆是と語り合った。

(左)明石麻依子 レゾナック DX推進部 部長 (右)柴田英樹 レゾナック・ホールディングス 執行役員 最高デジタル責任者(CDO)

(左)明石麻依子 レゾナック DX推進部 部長 (右)柴田英樹 レゾナック・ホールディングス 執行役員 最高デジタル責任者(CDO)

「共創型化学会社」としてDXに取り組む

柴田英樹(以下、柴田):私たちのパーパスである「化学の力で社会を変える」を実現するためには、あらゆるステークホルダーとの幅広い共創が欠かせないと考えています。レゾナックは「共創型化学会社」として、各種の共創を通じて持続的な成長と企業価値の向上を目指しているところです。そして「日本発・世界トップクラスの機能性化学メーカー」へと成長を遂げることにより、グローバル社会にポジティブな変革を生み出していきたいのです。

明石麻依子(以下、明石):その「各種の共創」を進めるためには、デジタルのソリューションを駆使してさまざまなステークホルダーとつながり、情報(データ)の共有化を図っていく必要があります。グローバル社会にポジティブな変革を生み出していくためには、まず私たち自身が「業務プロセスの改革」や「革新的な技術の適用」「組織風土の変革」「ビジネスモデルの変革」といったポジティブチェンジを繰り返していかなければなりません。これらに不可欠な取り組みとして、レゾナックではDXを推進しています。

武藤隆是(以下、武藤): 部署内で、あるいは部署を越えて、さらには外部の企業や組織をも巻き込んで、みんなで共創し、意義ある変化を遂げていく。そうした変革の過程・道筋こそが企業活動の本道であり、DXの本質でもあると私は考えています。「DXは自分たちを変え(=競争力の向上)、社会を変えていく(=社会価値の創造)ための屋台骨になる」という透徹した認識のもとで、レゾナックはDXに取り組まれていますね。その想いの強さ、志の高さに感銘を受けると同時に、実行部隊が集合したCDO組織の磐石さが現在のレゾナックの大変な強みになっていると感じています。

明石:私は 最高デジタル責任者(CDO)である柴田の管掌下でDX推進部を担当しています。 そのCDO組織に は、DX推進部の他にIT/デジタル戦略部、サイバーリスク管理部、ITインフラ部、ITアプリケーション部、先端技術探索部、デジタル教育・育成部、データマネジメント部があり、これら8つのセクションが目的や課題に応じて緻密なリンケージ(結合・連鎖・つながり)を保っています。

柴田:今、レゾナックは「世界で戦っていくためには情報やデータを最大限に活用することが必須」という観点を大切にしています。ワールドワイドな視点で競合他社に目を向けたとき、情報やデータの活用がかなり進んでいるという実態がありますね。先進的な企業は、どのような組織のもとでDXを推進しているのか――。そのベンチマーキングを1つの座標軸としながら、「レゾナックは、どのような組織や機能をもつべきなのか。そうした組織や機能によって何を目指すのか」という問いと向き合い、私たちは考え抜いてきました。「どのような組織や機能が具備されれば、世界と十分に戦えるのか」ということを明確にしたうえで、CDO組織の設計と運用を行っているのです。

茜ヶ久保友人(以下、茜ヶ久保):旧昭和電工時代の21年にはじめてお会いしたときから、私は柴田さんが見据えていらっしゃる変革ビジョンの大きさ、そして明快さに感銘を受け続けています。常に目線の先を世界に向けて、グローバル大手素材メーカーに勝つための DX を志向されていました。

柴田:レゾナックは先進企業に追いつくだけではなく、追い越さなくてはなりません。新たにDX戦略を遂行していく側としては「スピード感をもって取捨選択していくことが必要」との認識も忘れず、これまで走ってきました。

茜ヶ久保:柴田さんは先ほど、「『レゾナックは、どのような組織や機能をもつべきなのか。そうした組織や機能で何を目指すのか』という問いについて、私たちは考え抜いてきた」というお話をされましたが、この問いに対する「正しい答え」と「スピード感」を両立させるのは容易なことではありません。しかし、日本の化学会社が世界を舞台に戦っていくためには、その両立が絶対的に必要です。結果として今、レゾナックでは日本の化学メーカーとして他に類を見ないほどの勢いで、CDO組織が機能しています。

武藤:レゾナックのCDO組織が成果を出していくためには「醸成」が大事であると私は考えています。1つは「変革していくためのモメンタムを醸成していくこと」、もう1つは「揺るぎない信頼を醸成していくこと」です。後者においては、さまざまなステークホルダーの声を聞き、寄り添いながらロードマップを描き、取り組みの中身を柔軟に変えていくことが求められるでしょう。

 (左) 茜ヶ久保友人 PwCコンサルティング パートナー(右)武藤隆是 PwCコンサルティング パートナー

(左) 茜ヶ久保友人 PwCコンサルティング パートナー(右)武藤隆是 PwCコンサルティング パートナー

DX戦略の成否を大きく左右するものとは

柴田:レゾナックには、旧昭和電工と旧日立化成のPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション:合併後の経営統合・業務統合・意識統合の3段階からなる統合プロセス)をいかに推進していくかという課題もあります。そうした足元の課題を乗り越えながら、「日本発・世界トップクラスの機能性化学メーカー」へと着実に向かうDX戦略を遂行していかなければなりません。

統合の狙いは、両社の培ってきた素材技術やアプリケーション技術、評価・解析技術等を融合させ、共創型化学会社として世界で戦える機能性化学メーカーとなること。新社名のレゾナックは、英語の「RESONATE:共鳴する・響き渡る」に「CHEMISTRY:化学・化学反応」の「C」を組み合せることから生まれました。まずは、旧昭和電工と旧日立化成が共鳴して、化学反応を起こすことから始めなければなりません。それが今後のレゾナックの成長の土台となり、DX戦略の成否を大きく左右します。

明石:共鳴・化学反応を起こすための土台づくりとして、両社で異なる言葉の定義や、類似しているが異なっている両社の業務プロセスを「レゾナックとしての最適な標準プロセス」として統合する必要もあります。そこで、私たちは「言葉の定義統一」「業務プロセスの標準化・体系化」「データの構造化」に向けた取り組みをスタートさせました。この取り組みを「RWT(Resonac Way Transformation)」と称して、CXO組織や各部門と一緒に具体的に動いています。

旧昭和電工と旧日立化成、その2つの文化を融合していくのは大変です。レゾナックにはキャリア採用で入ってきた人材も多く、多種多様な人間がいて、実際のところは2つどころかもっと多くの文化を融合していかなければなりません。しかし、そうしたエキサイティングな状況だからこそ、やりがいがあります。コミュニケーションの質と量の最適化を図りながら、相互理解を深めることの難しさと面白さを感じています。紋切り型のコミュニケーションではうまくいきません。さまざまな経験を有するキャリア採用のメンバーの知見を集結し、レゾナックに合ったやり方で進めていく必要があると感じています。

柴田:ある事業所で上手くいったアプローチが他の事業所でも通用するとは限りません。DXの捉え方や期待値、課題は国内外の事業部・事業所によって異なり、バリエーションに富んでいます。今は、その違いを受け止めて、柔軟性を大切にしながら進めていくフェーズかなと考えています。

茜ヶ久保:各事業所の特徴を把握しながら、丁寧にアプローチしていくことが求められているのですね。

明石:現在、私が所属するDX推進部にも本当に優秀なメンバーが集まっています。世界で戦える会社になるために何をしたらいいのかを知っていて、そのためにスピード感を出していくこともできます。しかし、DX推進部のスピードに他の部門がついてこられなければ、DXを推進する意味がありません。個々人で成し得ることは限られています。情熱と知見をもつ仲間と一緒に、まさに共創の精神で進めていけたらと考えています。24年には、各事業部・事業所にDXの成功体験を拡げていきます。その事例を全社で共有しながら、DXの取り組みを身近なものにし、「自分もやってみよう!」と思える活動にしていきたいと思っています。またそういった活動を後押しするためにDXアワードなどの表彰制度を新たに実施していく予定です。

柴田:先ほど、武藤さんから「2つの醸成が大切」というお話をいただきましたが、そこにもう1つ「社員の意識の変化」も重要だと考えています。アワードの開催などを契機にして「ITやデジタル技術は使って当たり前」という意識を醸成することです。DXの何がいいのか、DXで何ができるのか――。それらを自分ごととして、しっかりと腹落ちできるようにしたいと考えています。そうすれば、DXは加速度的に進んでいくでしょう。

武藤:PwCコンサルティングではDXの司令塔を担う専門組織を「DXMO(Digital Transformation Management Office」と定義しています。予算権限やアサイン権限、事業構造・ポートフォリオの見直しに伴う施策優先順位の見直し権限などを有しながら、アジャイルかつ柔軟にプロジェクトを推進していくのが、DXMOの役割です。レゾナックでは、CDO組織が各事業部に寄り添って意識改革の働きかけを行いながら、マネージメントオフィスとしての機能を果たしていくわけですね。

柴田:現在はDX推進部をはじめとするCDO組織が主導していますが、将来的には各事業部・事業所が主導する形を目指しています。その際にはCDO組織のメンバーが各事業部・事業所に分散したり、逆に各事業部・事業所のメンバーがローテーションを組んでCDO組織で経験を積んだりといったポジティブな人材対流を考えています。それにより、全社的にDXが自走していくことを狙っているのです。

変化を日常にして、共創型のDXへ

武藤:「ITやデジタル技術は使って当たり前」という意識になり、DXが自走し、特別なことではなくて常態化している。すなわち、「変革が日常になる」ことがレゾナックの目指すところですね。

茜ヶ久保:レゾナックは「世界で戦っていくためには情報やデータを最大限に活用することが必須」という観点をおも ちですが、今後は1 つの業界において川上から川下までの企業がデータを共有したり、業界を超えて複数の企業がデータを共有したりする時代に入っていきます。「最大限に活用する」といった場合の「最大限」の意味合いが変わろうとしているのです。世界で戦い、勝ち残っていくためには、そうした新しいゲームに参加する準備を進めることも必要でしょう。

柴田:例えば、「私たちがつくった半導体材料が川下でどのように使われているのか」といったことがデータでしっかりと把握できるようになれば、新たなサービスを生み出すことができるでしょうし 、ビジネスモデルの変革にもつながります。今、先行している一部の事業部とは、そのような取り組みも始めているところです。

武藤:個社にとどまらない「共創型のDX」が、これからのキーワードになっていくでしょう。まさに「RESONATE:共鳴する・響き渡る」に「CHEMISTRY:化学・化学反応」の「C」を組み合せたレゾナックの時代になっていくのではないでしょうか。

柴田:ありがとうございます。レゾナックらしさを大切にして、PwCコンサルティングの皆さんとも共創しながら、世界を舞台にした戦いに挑戦し続けたいと考えています。

柴田英樹(しばた・ひでき) 明石麻依子(あかし・まいね) 茜ヶ久保友人 (あかねがくぼ・ともひと) 武藤隆是(むとう・たかゆき)

柴田英樹(しばた・ひでき)
レゾナック・ホールディングス 執行役員 最高デジタル責任者(CDO)。2019年5月に旧昭和電工に入社。理事役 情報システム部長 兼 グループCDO設置準備室長を経て、2022年1月より現職を務めている。

明石麻依子(あかし・まいね)
レゾナック DX推進部 部長。2022年5月、柴田CDOの「この会社をデジタルで変えていく」という想いに共鳴して旧昭和電工に入社。以降、DX推進部の人員を拡張しながら、全社横断プロジェクトを牽引。

茜ヶ久保友人 (あかねがくぼ・ともひと)
PwCコンサルティング パートナー。外資系コンサルティングファーム、M&Aアドバイザリーなどを経て現職。素材・化学・金属、石油元売業界を専門とし、事業戦略、M&A戦略、デジタル化戦略などさまざまなプロジェクトを経験。

武藤隆是(むとう・たかゆき)
PwCコンサルティング パートナー。大手ハイテク、外資系コンサルティングファームなどを経て現職。ストラテジーコンサルティング部門のクロスバリュー&ストラテジーチームに所属し、特に「DXにおけるリーダーシップ」を一貫して追求。

Promoted by PwCコンサルティング合同会社text by Kiyoto Kuniryophotographs by Shuji Gotoedited by Akio Takashiro

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PwC コンサルティングはプロフェッショナルサービスファームとして、日本の未来を担いグローバルに活躍する企業と強固な信頼関係のもとで併走し、そのビジョンを共に描いている。本連載では、同社のプロフェッショナルが、未来創造に向けたイノベーションを進める企業のキーマンと対談し、それぞれの使命と存在意義について、そして望むべき未来とビジョンついて語り合う。