ハワイ南東の公海域にあるクラリオン・クリッパートン断裂帯では、海底に存在するREEの探査が過熱している。今のところ、深海における採掘は、装置を試験するための限定的なものに留まっている。そんななか、いち早く深海での鉱物資源採掘を開始し、統合型回収機およびライザー掘削システムなどの技術を試験しているのが、カナダのThe Metals Company(ザ・メタルズ・カンパニー)だ。一方の中国も、自国のREE独占を回避しようとするこうした試みに対抗すべく、深海採掘に多額の投資を行い、この分野でも天然資源をめぐる競争で優位に立とうとしている。
ハワイ近海で始まった、この海底に存在するREEの争奪戦が、世界規模の争いに発展することは間違いない。アフリカの海に目を移すと、ナミビアの沿岸海域には、ベンゲラ海流によって多くのREEを含む団塊が堆積している。ナミビアは、世界で初めて、自国の管轄権の及ぶ海域内における深海採掘権の供与を開始した国だ。さらに同国は、供与ができる範囲を排他的経済水域(EEZ)内にまで拡大し、これを国際的な標準にしたいと考えている。
ナミビアは、未加工のREEを中国へ輸出することを禁じているが、ベンゲラ海流がこの国にもたらした将来性と危険性は、世界を席巻するトレンドになる可能性を秘めている。一方で、海底採掘によってREEの新たな供給ルートが開かれれば、西側諸国はREEの争奪戦において、より機敏に動けるようになるかもしれない。だがその一方で、海洋における管轄権をめぐる係争に、REEをめぐる対立が加われば、さらに緊張が増すおそれもある。
海洋の主権をめぐる係争は数多い。争いの焦点を、漁業権、もしくは、原油や石炭などの炭化水素エネルギーに限定しても、こうした係争を解決するのは容易ではない。さらにこうした紛争が、防衛やIT、AI、航空産業を含む、最先端のハイテク製造業の鍵を握っているとなれば、事態は解決不可能になる危険性をはらんでいる。
これらの紛争には、中国、ロシア、インド、米国といった世界の大国が関わっているだけでなく、ペルーやチリといった経済規模が中程度の国、さらにはソマリアやケニアをはじめとする世界でも最も貧しい国々も、こうした紛争の当事者となっている。こうして、あらゆる海域で紛争が発生している状況だ。