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2023.11.20 16:00

働き方を変え、求職者の意識をも変えた「シェア」の浸透とこれからの採用マーケット

写真左よりVISIBRUIT 代表取締役CEO・佐藤友一朗、シェアリングエコノミー協会代表理事 石山アンジュ

写真左よりVISIBRUIT 代表取締役CEO・佐藤友一朗、シェアリングエコノミー協会代表理事 石山アンジュ

ここ数年、働き方やキャリアのつくり方が大きく変化しつつある。求職者は何を求めているのか。そして、売り手市場が続く採用マーケットにおいて、企業はどのような対応ができるのか。
いまや常識となった「シェア(共有)」を切り口に、その第一人者として活動を続ける石山アンジュと、採用に特化したコンサルティング及び業務代行サービスを行うVISIBRUITの代表取締役CEO・佐藤友一朗、ふたりに話を聞いた。


——あらゆるもののシェアリングが進み、広がっていますが、シェアのあり方と現状について、おふたりはどのようにお考えでしょうか。

石山アンジュ(以下、石山):一般社団法人シェアリングエコノミー協会で、モノやスキル、場所はもちろん、あらゆるものを共有していくためのルール形成やシェア業界の普及啓発に努めていますが、シェアリングエコノミーの確固たる定義というのは世界的にみてもなく、多様なシェアリングの形があります。いま広まっているものでいうと、キックボードのようなB to C型、行政がもつ資産を共有するG to C型、知見や経験、スキルや情報などを個人間で共有する C to C型などがあります。

市場規模としては、2022年時点で2.6兆円ほどの市場規模になっています。経済への貢献という視点だけではなくて、生きがいや幸福度の向上にも寄与するということも、調査をさせていただくなかでわかってきています。

佐藤友一朗(以下、佐藤):私の場合、プライベートでもビジネスでも、ここ数年でシェアリングエコノミーが生活の一部になりました。より良い旅行プランを立てようとするときにAirbnbでの宿泊先検索は欠かせませんし、旅行先の移動手段はUberやGrab、LUUPやShaeroを利用します。ワクワクするような近未来的デバイスやサービスがないかとMakuakeを覗くことが日課になっていて、大好きなスニーカーはメルカリやSNKRDUNKで売買します。

ビジネスでは創業以来シェアオフィスに拠点を構えており、最初のコーポレートサイトをcoconalaで制作したことが懐かしく思い出されますね。創業当初はなかなか大きな仕事が見つからず、CroudWorksやVISASQで小さな仕事の依頼を受けることもありました。

知人友人、就活生から起業や副業の相談を受けることも年々増えてきていますが、大きなリスクを伴う決断をする前に、自身が持つノウハウやスキルのシェアから始めては?とアドバイスすることがほとんどです。コロナ禍での就活や転職活動によって、YoutubeやUdemyなどから情報収集することがすっかり当たり前になり、多くの方にとって良い判断材料が得られる新たな機会となっている実感があります。


——スキルのシェアによって、働き方にも変化が生まれています。この変化をどのように捉えていますでしょうか。

石山:個人が持っている多様な何かを共有することによって、無数の小さな支え合いが広がり、さまざまな選択肢をつくることができるようになりました。これまでは、フリーランスで自由な働き方ができる仕事というとエンジニアやライターなど職種が限られていたと思いますが、ご飯がつくるのが得意とか、ニッチな外国語が得意とか、そういったことが仕事にできるようになったのは大きなことだと思います。

また、オンラインで時間や場所にとらわれない働き方ができるようになり、週1回だったり、3時間だけだったり。それこそ働くというより自分の部屋を貸し出すといったように、収入のあり方も広がっています。時間や働き方に制約がある主婦の方や、リタイアしたけれどまだまだ元気なシニアの方が、自分にあった働き方を選択できる受け皿にもなり得ている。これらのことが、経済的な面だけなく、幸福度の向上にもつながっているのかなと考えています。



佐藤:さまざまな視点から、今後の日本にとって必要な変化であり、さらに加速させるべきことだと思います。昨年、リクルートワークス研究所が、「2040年の日本は、1100万人の労働力供給不足に陥っているにも関わらず労働需要はほぼ横ばいである(未来予測2040)」とする深刻なシミュレーションを発表しました。

いまの私たちの生活水準を維持する場合、業務の自動化・機械化を徹底することはもちろん、働き方を一層柔軟にし、スキルの効率的シェアによって企業横断的な生産性を最大化させることで労働力供給不足に備えていくことが大切だと理解します。

また、Workish actと呼ばれる取り組み(何か社会に対して提供しているかも知れない、本業以外の活動-引用リクルートワークス研究所未来予測2040)を広げて、社会全体へ役に立つ必要が強まり、また逆に、目に見えない誰かのWorkish actに生活が支えられているのだろうと予測しました。

定義から考え直すべき、企業と個人の信頼関係

——働き方の変化や求職者の意識の変化によって、企業と個人の関係はどのように変わっていくとお考えでしょうか。

石山:個人に関しては、働き方をよりシェアして分散していくような、複数の選択肢を持つことがスタンダードになると考えています。なぜかというと、「安定」に対する捉え方が変わってきていているからです。

上の世代にとっては「より大きなブランドや企業に帰属意識を持って、長く働ける環境があること」が安定というステータスだったと思いますが、若い世代は「より複数の企業や選択肢を常に持っている状態で、複数のコミュニティや組織に帰属意識を分散させること」が安定だと考えるようになってきています。何が起こるかわからない時代だからこそ、Aが駄目でもBがある、Bが駄目でもCがあるという、複数の状態を持っていることが安定のステータスになっているのです。

それが、何が起きるのかわからない時代のなかで、その変化に緩やかに適応しながら、自分らしくいられるあり方なのかなと思います。また、複数の選択肢を知っているからこそ、ひとつの組織で悩んでいることが実はどうでもよくなるような気付きを得るきっかけにもなったりします。企業側はその人にとって何が安定なのか、何が安心な環境なのかということを考えながら、それぞれに合ったコミュニケーションをとったり、働く環境を整備したりする必要があるのかなと思います。

佐藤:企業と個人間のコミュニケーションにおいては、注意すべき点も変わってきたと考えています。

大きく3つあるのですが、ひとつはコミュニケーションの明確さ。
例えば、業務なのかどうかが曖昧な就業後の半強制的飲みニケーションや、貴重な休日をまとめて拘束するような社員旅行は著しく従業員のエンゲージメントを下げてしまいます。報酬を前提としたり、実施の目的を明らかにしていくなど、新しい在り方を検討する必要がありそうです。

もうひとつは透明性の高さ。
例えば、同じ組織における部門/部署間、個人間での共通認識作りや情報伝達、合意形成のプロセスに問題がないかは確認したいところですね。企業内の閉鎖的で歪なコミュニケーションがSNSによって社外へと暴露、拡散され、業界最大手企業の存続を脅かす経営リスクへと発展した事例も記憶に新しく、十分に気をつけなければなりません。

最後に相互尊重に基づくコミュニケーションであるかどうか。
これまでは終身雇用の考え方が根強く、従業員を雇用する企業側がする「評価」、言わば生殺与奪の権限を盾にして忠誠を誓わせるようなコミュニケーションが珍しくありませんでした。芸能プロダクションの廃業をきっかけに、各タレントとのエージェント契約への移行が求められているのも、企業と個人との関係が主従的なものから並列的なものへと変化していく象徴的事例だと思います。並列的関係を維持、発展させる上で、相互尊重はキーワードになりそうです。

合わせて企業が求める期待に個人が応えるということを前提に、いかに公平な評価を施していくのかも重要な論点です。今後の企業は個々人のキャリアアップやプライベートな時間との両立を容認するだけではなく、積極的に応援する姿勢を示していくことが大切ではないでしょうか。


石山:並列的な関係は、言い換えるなら、パートナーシップ的なフラットな関係ともいえると思いますが、私はそんな関係を望んでいたので、そういう社会になっていいなと思っています。反面、いわゆる昭和型の上下関係の強い組織経営みたいなものがどんどん減ってきているし、むしろそれが企業にとってマイナスのイメージで切り取られることも増えました。

以前は、人生まるっとオープンにいろいろと相談して、ある種それを守ってくれるような存在、会社というかそういう上司がいるように感じていました。そういった、いい側面は残していった方がいいのではないかと思うのですが、個人主義で切り売り的な働き方になってしまっているなかで、企業としてどうやったら残していけるのか。何で信頼関係を結ぶのか、何が信頼関係のある状態なのかというのは千差万別で、会社のカルチャーだったり、代表の人柄だったり、いろいろな要素を踏まえて、それぞれの会社で通用する信頼関係というのがあるのだと思います。


佐藤:そうですね、信頼関係の定義や構築の仕方について見直す時期がやってきたのではないかと実感します。スキルやヒト(人材)のシェアが広がっていくことは想像できていましたが、ヒトのシェアも根底にある信頼がないと成り立たないので、信頼という概念さえもシェアされる時代になるのだろうかと考えさせられました。

ビジネスにおいて、ひとつ屋根の下で長い時間を共有したり、同じ釜の飯を食うなどの共通体験がこれまでよりも減ってしまうのは寂しい気持ちもありますが、短時間で相互理解を深めたり、強烈に喜怒哀楽を分かち合いながら協力するためには、やはりデータとテクノロジーの力を活用することが大切だと思います。協働できた時間が短く、断片的であったとしても、それがなんらか客観的なデータとして蓄積されていけば、再会した際のリスタートもスムーズになります。

また、目の前の人が何を大事にしていて、これまでの時間をどのように過ごし、どんな能力を持っているのか、誰が見ても明らかな状態に可視化できると信頼関係構築のプロセスを大きくショートカットできるのではないでしょうか。これまで個々人のウェットな部分に依存していたことも、デジタルで切り出してシェアするようなサービスが生まれる日も近い気がします。


採用活動には変化と強化が必要

——さらに、日本では労働人口が減少し、今後ますます人材の確保が難しくなることが予想されます。企業はどのように向き合っていけばよいのでしょうか。

佐藤:労働人口が減少し、各社の離職率も上がっていくことが予想されますが、企業は必要以上に恐れる必要はありません。実は、企業の売上高経常利益率が最大になる離職率は19.4%で、現状の平均値6.7%(2016年時点)と比べて約3倍程度の差があり、いまがむしろ低過ぎると指摘する研究結果が存在します。

とはいえ、各社にとって組織力の維持は不可欠です。定年引き上げによるシニア層の活躍にも期待したいところですが、やはりこれからの「採用力の変化」と「採用力の強化」が重要になるでしょう。

「採用力の変化」とは、新卒採用依存から脱却し中途採用へと重心を移していくことを指します。これから各社の離職率が高まると、即戦力人材をいかに採用するかが生命線になります。新卒を大量に一括採用して多大なコストを掛けて育成する戦略は、離職率が低い状態が持続することを必須条件として成り立っていましたが、それが崩れゆく今後は、これまで新卒に掛けていた育成コストを即戦力性の高い中途人材の採用コストに積極的に充当していく必要があります。

また「採用力の強化」とは、現従業員だけでなく雇用関係にないビジネスパーソンとの繋がりを積極的に開拓、発展させ、将来的な協働関係の構築を目指すことを意味します。現在の日本の労働力人口は約6,900万人ですが、新規学卒者は毎年約40万人しか流入しないため、いかに限られたパイのなかで良好なコミュニケーションをデザインできるかが各社の命運を分けるでしょう。これまでは珍しかった、退職者と業務委託契約を結んで協働関係を再構築したり、数年後に再雇用することも当たり前になる世界になりそうです。

石山:協働関係の構築を目指すとなると、個人を惹きつけていく鍵や、価値観の差を埋められるもの、安定とか世代間の価値観の違いも超えて、「どんな環境でもいいから、この社会を変えるために自分がここにいたい」という存在意義や目的、個人と個人、個人と会社を結びつけるものが大切になっていくのかなと思います。

実際に、個人の視点が「会社の評価」から「社会の評価」に変わってきていると感じています。これまでは営業成績1位とか会社のなかでの評価をしっかりつくって、ステータスを得ることができたかもしれないけれど、いまはそれだけでは不十分で、社会からどう評価されるのかということが同時に満たされるものでないと若い世代は満足できない。

だから企業としては、働き方の環境よりも、なぜ働くのか、なぜそこで働くのかというパーパスの方が重要になってきています。リモートワークができたり、福利厚生だったり、そういったことが働き方を選択するうえで大きな割合を占めていたように思うのですが、いま全体的に人手不足なこともそうですし、多様な働き方が選択肢としてある状況のなかでは、会社で働くことだけがすべてではない。そうなったときに、なぜそこで働くのか、その会社はそのサービスを通して社会に何を与えたいのか、どういうふうに社会を変えたいのかという視点までグリップできるような会社が今後求められていくんだろうと思います。

佐藤:2040年にかけての日本におけるひとつの格言は、「いまが一番人材を獲得しやすい」になるだろう、と言われています。シニカルな表現ではありますが、まさしくその通りになりそうです。また、“人数”という意味だけでなく“その人材の質、能力値”の面でも同様で、これから先の人材はインフレの一途を辿ります。

いまこの時も、東証プライムに上場する企業間において人材採用に対する熾烈な投資合戦が繰り広げられています。ひと昔前までは想像すらできなかった水準の年収提示が20台後半の若者になされることも珍しくなく、それをリードしているのは外資系のコンサルティングファームです。
資本主義社会においては待遇や報酬は、就職先の意思決定をする最重要事項のひとつなので、この競争についていくことができない企業は苦しくなるでしょう。

だからこそ、その企業で働く経済的価値以外の部分の魅力とは何か、急ぎ見つめ直す必要がありますね。その企業のミッション、ビジョン、バリューをはじめ、得られる体験価値とは何かについても改めて考えなければなりません。


佐藤友一朗◎VISIBRUIT代表取締役CEO。美容系専門商社経営企画室、ITコンサルのHRを経て2016年にVISIBRUITを創業。採用のスペシャリストとして約15年間、大手総合広告代理店、コンサル、大手SI、大手人材、メガベンチャーの採用戦略立案から実務までを手掛け第一線に立ち、通算約5万人の面接、キャリアカウンセリングを経験。

石山アンジュ◎シェアリングエコノミー協会代表理事。デジタル庁シェアリングエコノミー伝道師。一般社団法人PublicMeetsInnovation代表理事。リクルート、リクルートキャリア、クラウドワークスを経て、 2016年一般社団法人シェアリングエコノミー協会の立ち上げに関わる。シェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルを提案する活動を行うほか、政府と民間の間で規制緩和や政策推進にも従事。USEN-NEXT HOLDINGS 社外取締役。報道番組などのコメンテーター、新しい家族の形「拡張家族」を広げるなど、幅広く活動している。新著に「多拠点ライフ-分散する生き方-」。

Promoted by VISIBRUIT / text by Kyoko Kanzaki / photographs by Kei Ohnaka / edited by Hirotaka Imai

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