北米

2023.11.11

集団窃盗に苦慮する米小売業、店員の「ボディカメラ着用」で対抗

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万引きや窃盗の急増に直面する米国の小売業界は、警備員を雇い、さまざまなセキュリティツールを導入しているが、問題は悪化の一途をたどっているようだ。

全米小売業協会(National Retail Federation)によると、万引きや組織的犯罪、従業員による虚偽の申告などがもたらす在庫損失(業界用語でシュリンクと呼ばれる)は昨年、1120億ドル(約17兆円)に達したという。

背景には、オンラインで商品を転売する組織的な犯罪集団の急増があるとされ、ウォルマートやターゲット、ベスト・バイなどのCEOは、決算説明会でこの問題を非難した。ターゲットは先月、盗難の多さと安全上の懸念を理由に9店舗を閉鎖した。

そんな中、店舗は、これらの犯罪に対抗するため警備員のみならず、小売店の従業員へのボディカメラの導入を進めている。米国ではここ1年半の間に、数十社の小売業者が店舗での監視テクノロジーの研究や使用を開始しており、英国でもテスコのような大手が、従業員へのボディカメラの導入を進めている。

全米小売業協会のオペレーション担当バイスプレジデントのデビッド・ジョンストンは「ボディカメラは、小売業者が模索している技術のトップ3のうちの1つだ」と語った。他の2つは、人工知能(AI)を活用したテクノロジーと、商品の所在を追跡する無線識別技術だという。

ボディカメラのメーカーにとって、店舗は新たな巨大な顧客基盤になる可能性がある。カメラの価格は通常500ドルから700ドルで、それに加えてクラウドへの映像保存のためのソフトウェアの月額料金が30ドルほどとされる。全米で最大の雇用者の1つである小売業界には約1500万人の店舗従業員がいるため、ボディカメラ企業は、業界全体の10分の1が導入すれば、10億ドル以上の売上を上げられる。

北米最大のショッピング施設のモール・オブ・アメリカは最近、警備員全員にボディカメラを装備させた。同社はこのテクノロジーが、年間3200万人の来店客を抱えるモールでの犯罪行為を記録し、抑止するのに役立つことを期待している。

スタンガンを開発した年間売上高が12億ドルのAxon(アクソン)社のエンタープライズ部門のマイク・ショアによると、同社のボディカメラは、二十数社の小売業者に導入もしくは試験運用されているという。それらの企業の多くは、まずは10店舗程度から導入を開始し、その後、すべての拠点に導入を進めていく。

店員がボディカメラを装着するメリット

「店舗の多くには監視カメラが設置されていますが、それだけでは不十分なのです」とショアはフォーブスに語った。

ボディカメラは、店舗の壁や天井に設置された監視カメラとは異なり、音声つきの現場からのライブ映像を提供できる。事件現場の映像はオペレーションセンターから監視可能で、そこから追加の警備員を派遣することも可能だ。

この映像は、万引き犯を起訴する際の証拠となる。ある店舗では、ボディカメラを装着した従業員が、万引きした商品を持って更衣室に入った女性の窃盗犯に立ち向かった。犯人は従業員に唾を吐きかけ、罵声を浴びせたが、録画されていることを知らされると、商品を置いて立ち去ったという。
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編集=上田裕資

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