──2017年に日立コンサルティングと共同でAIを使った日本の未来のシミュレーションを始められました。どのような経緯で始まったのでしょうか。
広井良典教授(以下、広井):2016年に京都大学に日立京大ラボができました。AIの専門家など日立の技術者が京大キャンパスに常駐し文理融合の新たな社会イノベーションを共同研究するという取り組みで、そこから、AIによる日本の未来をシミュレーションする研究が始まりました。
「2050年に日本は持続可能か」という大きな問いをたてて、人口減少も進むなかで、日本社会が持続可能であるためには何が重要かというのを、AIを使って手がかりを探ってみました。
まず、日本社会の現在、そして未来にとって重要と思われる、人口とか経済とかエネルギーとか環境などの領域から約150の社会的要因を抽出し、因果連関モデルというものをつくりました。イメージで言えば、多くの要因が互いに影響を及ぼしながら、時間の流れとともに進化して、未来がパラレルワールドのように枝分かれしていく、その2万通りの未来を出して、分析するというものです。
結論から言いますと、日本社会の未来にとって、都市集中型か、地方分散型かというのが最も本質的な分岐点になるということがわかりました。経済だけでなく格差、健康、幸福度などを考えると、一極集中を緩和し、人口減少が改善する地方分散型のパフォーマンスが高かったのです。その分岐は25年から27年ぐらいに起きることになります。
さらに、地方分散型の社会になるために必要な要因を分析してみると、再生エネルギーや環境、地域公共交通、コミュニティの文化といったものが上位に出ていました。
──その後、新型コロナウイルスの感染拡大を経て、新しいバージョンも公表されました。
広井:21年の2月に公表した研究では、さらに進んで「包括的な分散型社会」が重要である、という分析結果になりました。
最初のシミュレーションの「分散型」とは、東京と地方といった、空間的な意味の集中分散であったのに対して、2回目のポストコロナで出たものは、より広い意味の分散型です。
特に強い要因として出たのが、女性の賃金上昇や女性の働く環境、といった女性活躍の要素です。テレワークやサテライトオフィスなど、コロナで新しく伸びてきた、働き方や住まい方、ひいては生き方のより広い意味での分散も強い要素として出ていました。まさに多様性が重要であるという結果です。
最終的に、単純な地方分散型というよりも、東京のような大都市圏も地方もウィンウィンの関係の都市地方共存型が望ましいという結果も得られました。しかも、都市と地方がうまくつながることで農業も活性化するという内容でした。