マガイモノがブームをつくる
さて、問題は若い人がこれからどうやってカルチャーで食っていけばいいのかってことだ。世の中に漫才師が5組かそこらしかいない状態で「漫才で日本一になる!」なんて息巻いたところで、そんなものは商売になんてなりゃしない。「オレも漫才師になりたい」と思うやつが100組、1000組、1万組とひしめく戦いが始まれば、そのなかで上澄みに躍り出たやつがスターになれる。
だからブームってのが必要なんだ。才能さえあれば成功できるわけじゃない。
誰もが「オレもなれる」と思って参入してニセモノがいっぱい増えると、ブームは起きる。ブームを支えているのは、実はなんだかよくわからないニセモノなんだ。超本格派の本物の才能をもっている人間が一人いても、それでは商売にならない。母数が多いからこそ、本物の素晴らしさがわかる。そうして淘汰が始まる。
YouTuberが典型でしょ。オイラはYouTubeをよく見るけど、プロも素人もゴチャ混ぜ状態の時代から、見る人が番組を選ぶようになってやっと本当の戦いが始まっているよね。
もっと言うと、モノをつくる才能さえあれば成功できるわけじゃない。そのモノを世に出すための「見極めの才能」も必要なんじゃないかな。社会が何を求めているか。つまり、自分がこれをやったらいまの世の中で当たるっていう見極めができるかどうか。
独りよがりの作品ばかりつくっていたら、誰にも見向きもされない。文化やアーティストを生き延びさせるのも評論家なら、潰すのも評論家。製作者と評論家、ふたつの視点を同時にもたなきゃいけない時代なんだよ。
きたの・たけし◎1947年、東京都生まれ。72年、漫才コンビ・ツービートを結成し、漫才ブームをけん引。89年『その男、凶暴につき』で映画監督デビュー。『HANA-BI』(98)でヴェネツィア国際映画祭の金獅子賞、『座頭市』(03)で同銀獅子賞を受賞。